ヴァツサ国

ヴァツサ国の概要

ヴァツサ国（またはヴァンサ国）は、古代インドに存在した国で、その名はサンスクリット語で「वत्स」（Vatsa）と呼ばれている。初期仏教の重要な聖典『アングッタラ・ニカーヤ』にも記載され、北道の十六大国の一つとして歴史に名を刻んでいます。首都はカウシャーンビーで、現代のウッタル・プラデーシュ州のコーサムにあたると考えられ、アラーハーバードから南西に約55kmの位置にあります。

歴史の背景

ヴァツサ国の創立に関する伝説は多岐にわたります。一部のプラーナ文献では国名がカーシー国の王であるヴァツサ王から由来するとされており、他の文献では、ガンジス川の氾濫により移住したバラタ族のジャナメージャヤ王の子孫、ニチャクシュ王によって首都が建設されたと言われています。さらに、『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』においても、首都カウシャーンビーの設立はチェーディ国の王子によるものだとされています。

シャターニーカ2世の支配

ヴァツサ国を最初に治めた王は、バラタ族のシャターニーカ2世（शतानीक）です。彼の父については異なる記載があり、プラーナではヴァスダーナとし、バーサの戯曲ではサハスラーニーカとされています。彼はヴィデーハ国の王女と結婚しており、ウダヤナという息子をもうけました。シャターニーカ2世は、隣国アンガ国の首都チャンパーを攻撃したという記録も残っています。

ウダヤナ王の治世

ウダヤナ王（उदयन）は、シャターニーカ2世の跡を継いでヴァツサ国の王となりました。彼の妃ヴァーサヴァダッターとの間には、ボーディという息子が生まれたとされています。ウダヤナ王は仏教の信者であり、ブッダと同時代の人物だったと考えられています。彼の治世には、首都カウシャーンビーを訪れたブッダが教えを広め、多くの文献にその名が登場します。

ウダヤナ王に関する物語は、さまざまな文学作品に記載されています。『カーサリットサーガラ』では彼の遠征が描かれ、『プリヤダルシカー』ではカリンガ国遠征の成功と妃の家族の復位が語られています。更に、仏教の重要な著作『ダンマパダ』にも登場し、王妃との結婚についての記述があります。また、他にも多くの妃を持ち、ウダヤナ王の物語は幅広い文献にわたって広がっています。

ヴァツサ国の最期

ウダヤナ王の後、その治世を引き継いだ王としてヴァヒナーラ、ダンダパーニ、ニラミトラ、クシェーマカの名が挙げられていますが、最終的にヴァツサ国はアヴァンティ国に併合されました。このアヴァンティ国の王であるプラディヨータ王の曾孫が、ヴァツサ国の首都カウシャーンビーを治めていたとされています。国の繁栄から衰退の歴史を経て、ヴァツサ国の名は古代インドの歴史において重要な位置を占めています。

このように、ヴァツサ国は歴史的背景や伝説、そして仏教との関わりを通じて、古代インドの文化や社会に多大な影響を与えた国でした。

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