ヴァリボナヴェナトリクス

ヴァリボナヴェナトリクス：スペインの白亜紀を闊歩した狩人

発見と命名

ヴァリボナヴェナトリクス（Vallibonavenatrix cani）は、スペイン、カステリョン県にあるアルシリャス・デ・モレーリャ累層のバリボナ地域で発見されたスピノサウルス科の恐竜です。1980年代後半から1990年代前半にかけて、アマチュア化石収集家であるフアン・カノ・フォルナー氏によって発見された化石は、その後、1994年に博物館の所蔵品として登録されました。

2007年には、その一部が獣脚類の骨盤として予備的に記載されました。そして2019年、エリザベーテ・マラファイア氏らの研究チームによって、新たに発見された骨格に基づき、スピノサウルス科の新属新種として記載されました。属名は発見地であるバリボナに由来し、種小名caniは発見者カノ・フォルナー氏への献名です。ヴァリボナヴェナトリクスの化石は、イベリア半島で発見されたスピノサウルス科の化石としては最も完全なものです。

記載

ヴァリボナヴェナトリクスは中型サイズの二足歩行性捕食動物で、推定全長は約8メートルに達したと推測されます。特徴的なのは、胴椎の上方に伸びる神経棘です。その形状はスピノサウルス科のイクティオヴェナトルと類似しており、背中に帆状の構造があった可能性も示唆されています。また、仙骨には深い胸骨窩と骨格の含気性が見られ、骨盤の腸骨にも大きな空隙が存在するなど、独特の骨格構造を持っていました。

分類

ヴァリボナヴェナトリクスの分類については、議論があります。2019年のマラファイア氏らの研究では、スピノサウルス亜科に分類されました。しかし、2021年のクリス・バーカー氏らの研究や2022年のオクタヴィオ・マテウス氏とダリオ・エストラビス＝ロペス氏らの研究では、スピノサウルス亜科だけでなくバリオニクス亜科との関係性も示唆されており、系統的位置は依然として確定していません。今後の研究でより詳細な情報が得られることが期待されます。

古環境

ヴァリボナヴェナトリクスは、前期白亜紀バレミアン期（約1億2940万年前～1億2500万年前）のアルシリャス・デ・モレーリャ累層に生息していました。この時代の環境では、鳥盤類のイグアノドン・ベルニサルテンシスやモレラドン・ベルトラニ、竜脚類、そして同時代のスピノサウルス科であるプロタスリティスなど、様々な恐竜と共存していたと考えられています。

まとめ

ヴァリボナヴェナトリクスは、イベリア半島の白亜紀生態系を理解する上で重要な恐竜です。今後の研究により、その分類や生態、そして他の恐竜との関係性がより明確になることが期待されます。完全な骨格ではないものの、多くの情報を提供する貴重な発見であり、スペインの白亜紀における恐竜進化研究に大きく貢献しています。特に、背中に帆を持っていた可能性や、スピノサウルス科における系統的位置については、さらなる研究が不可欠です。 その形態学的特徴の比較研究を通じて、スピノサウルス科の進化と多様性を解明する上で、ヴァリボナヴェナトリクスは重要な役割を果たすと考えられます。 また、発見された地層の古環境に関する研究も合わせて進めることで、当時の生態系におけるヴァリボナヴェナトリクスのニッチや行動様式についての理解も深まるでしょう。

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