ハスカール

ハスカール（Huskarl）

「ハスカール」あるいは「ハウスカール」として知られる戦士たちは、ヨーロッパの暗黒時代から中世初期にかけて、主にゲルマン民族、特に北欧やイングランドを中心に存在した専門的な兵士集団です。

中世ヨーロッパでは、封建制度の発展に伴い、土地と引き換えに騎士を動員して軍事力を確保する仕組みが確立されました。しかし、まだこのような制度が根付いていない、あるいは不十分な社会においては、恒常的な戦闘力を維持するためにハスカールのような存在が不可欠でした。彼らは小規模ながらも常備軍としての性質を持ち、幼い頃から厳しい戦闘訓練を積み重ねていました。

ハスカールは、特定の首領や王侯貴族の私兵として仕え、その労苦に対する報酬として、主に金銭や戦利品の分配を受け取っていました。この報酬体系のため、主君が充分な略奪を行えなかったり、支払いが滞ったりした場合には、ハスカールが主君を見限ったり、場合によっては排除に動いたりすることもありました。このように、彼らは自発的な戦闘集団としての側面が強く、主君への絶対的な忠誠を誓う決定的な戦力とは言い難い面がありました。

ただし、例外的に驚くべき忠誠心を示した例もあります。1066年のヘイスティングズの戦いでは、イングランド王ハロルド2世が敗死した後も、彼に仕えていたハスカールたちは最後まで戦場に踏みとどまり、一人残らず壮絶な討ち死にを遂げたと伝えられています。

時代の流れとともに、「ハスカール」という言葉は、広義の傭兵全般を指すように変化していきました。

ハスカールの制度が文献に初めて登場するのは11世紀初頭です。デンマーク王スヴェン1世がイングランドを征服した際に、この制度を持ち込んだのが始まりとされています。イングランドでのハスカールは、王宮に常駐し、一人の伯爵に対して250人から300人が配属されるほど大規模な集団でした。当時のイングランドにおいて、彼らは最も強力な戦士集団の一つであり、度重なる戦闘でこの精鋭部隊を消耗したことが、ハロルド2世がノルマンディー公ウィリアム（後のウィリアム1世）に敗れた要因の一つとも言われています。

また、中世ルーシのキエフ大公国などで見られた親衛隊や従士団「ドルジーナ」は、ルーシに進出したヴァイキング（ヴァリャーグ）のハスカールがその起源になったと考えられています。さらに、こうしたヴァイキングやノルマン人の傭兵部隊は、遠く東ローマ帝国にも渡り、「ヴァラング隊」として皇帝の親衛隊を務めました。

ヨーロッパ諸国で封建制度が確立し、騎士を中心とした軍事組織が主流となるにつれて、ハスカールの必要性は薄れていきました。彼らは徐々に騎士団や領主の組織に組み込まれるなどして、その独立した存在形態は姿を消していきました。

装備と戦術

ハスカールの主な装備としては、剣や槍（おそらくフラメア）、大型のカイトシールド、丈の長い鎖帷子、そして水滴型の兜が一般的でした。中には、棍棒や両手持ちの剣、そして特に強力な長柄の斧を巧みに操る者もいたようです。この長柄の斧は、イングランドのハスカールの象徴ともいえる武器で、ヘイスティングズの戦いでは、ノルマン人の騎兵に対抗するため、サクソン人のハスカールたちがこの斧を用いて馬の脚や首を断ち切る戦術をとりました。戦場への移動に馬を用いることはあっても、戦闘自体は基本的に歩兵として行われました。

槍を持つハスカールは、当時のヨーロッパにおいてオーディン信仰の影響で戦場での開戦の合図として槍を投げる風習があったこともあり、その槍を投擲武器として使用することもありました。さらに、彼らは槍の穂先を掲げ、大型の盾を前面に構えることで、古代ギリシャのファランクスに似た密集陣形「槍衾」を形成し、敵の弓矢や投擲武器から身を守りました。大型で頑丈な盾は、ハスカールを象徴する重要な防具であり、革紐で肩にかけ、両手武器を使用する際も携帯可能でした。

なお、現代のコンピュータゲームなどでは、ハスカールが弓矢に対する防御力が高く、要塞攻略に優れるように描かれることがありますが、歴史的な文献にそのような特筆すべき記述は見当たりません。これは、ゲルマン系の傭兵が略奪品を報酬とする性格から派生した、創作上のイメージである可能性が高いと言えます。

ハスカールは、封建社会以前・未成熟な時代の軍事力を支えた重要な存在であり、その戦闘能力と独自の組織形態は、ヨーロッパ史の一時代を特徴づけています。

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