ヴァーレ

ヴァーレ（Vale S.A.、旧社名：Companhia Vale do Rio Doce、旧称：リオドセ）は、南米ブラジルに拠点を置く世界有数の総合資源開発企業です。ブラジルを代表する民間企業の一つであり、本社はリオデジャネイロに位置しています。

事業概要

ヴァーレの主力商品は鉄鉱石であり、その生産・販売量は世界市場の約35%を占め、世界第1位の地位にあります。同社はリオ・ティント（Rio Tinto）およびBHPグループ（BHP Group）と共に「鉄鉱石メジャー」と呼ばれ、これら3社で世界の鉄鉱石輸出量の約80%を占める巨大企業です。

鉄鉱石以外にも多岐にわたる鉱物資源を手がけており、ニッケルにおいては世界第2位の生産量を誇ります。その他、ボーキサイト、銅、金、マンガン、炭酸カリウムなどを採掘・生産しています。

2001年時点の事業規模を示すデータとして、鉄鉱石生産量は1億2200万トンでした。主要鉱山は、北部のパラー州にあるカラジャス鉱山、南部のミナスジェライス州にあるイタビラ鉱山とサミトリ鉱山で、これら3鉱山で同社全体の生産量の約9割を占めていました。また、ボーキサイト1070万トン、マンガン170万トン、金1.6トンの生産実績があり、保有する鉄鉱山の推定埋蔵量は39億9000万トンとされていました。同年における売上高は39億9000万米ドル、純利益は11億2000万米ドルでした。

資源採掘・開発に加え、ヴァーレは鉄道、海運、発電といった関連インフラ事業も手がけています。

歴史

国営企業時代

ヴァーレは、第二次世界大戦中の1942年6月1日に、ブラジルのミナスジェライス州イタビラで国営企業として設立されました。当初はアメリカ、イギリスへの鉄鉱石供給を担いました。設立翌年には、ヴィトーリア・ミナス鉄道が開通し、鉄鉱石輸送の基盤が整備されます。設立から7年後には、ブラジルの鉄鉱石輸出量の80%を担う重要な存在となりました。

1966年には、エスピリトサント州ヴィトーリア近郊にトゥバラン港を開港し、鉄鉱石の主要な輸出拠点としました。1970年にカラジャス鉱山の開発が始まり、1974年には世界最大の鉄鉱石輸出業者としての地位を確立しました。この地位は長らく維持されています。

鉄鉱石以外の資源採掘への多角化は、1982年にリオデジャネイロ州でアルミナ生産を開始したことに始まります。設立以来の企業活動を通じて、ヴァーレの事業はブラジル国内の広範囲に拡大し、扱う鉱産品も多様化、それに伴う輸送ネットワークも整備されていきました。

カラジャス鉱山の本格的な生産拡大は、1985年のカラジャス鉄道（EFC）開通が契機となりました。翌1986年には、カラジャス鉱山からの鉄鉱石輸出専用港として、マラニョン州にポンタ・ダ・マディラ港（マデイラ港）を開港しました。

民営化

約半世紀にわたり国営企業として運営された後、1997年5月6日に民営化されました。この決定には一部から反対意見も聞かれましたが、ナショナル製鉄（Companhia Siderúgica Nacional, CSN）を中心とする企業連合が普通株の41.7%を取得する形で移行しました。2002年3月には、残る国家保有分の普通株もすべて売却され、完全に民営企業となりました。その後、ブラジルの証券取引所であるBOVESPA（現B3）に上場し、さらにニューヨーク証券取引所にも外国預託証券（ADR）の形で上場しています。2006年にはカナダの鉱業大手インコ社を180億ドルで買収するなど、国際的な拡大も進めました。2007年11月には、対外的な呼称を正式に「ヴァーレ」へと変更することを発表しました。

輸送システム

ヴァーレは広大な鉄道網を保有・運営しており、これは鉱物輸送において極めて重要です。2000年から2006年にかけて、傘下鉄道に総額13億米ドルを投資し、機関車361両以上、貨車約1万4090両などを購入・更新しました。機関車は主に鉄鉱石輸送に用いられますが、一部は一般貨物輸送にも使用されています。この投資により、ヴァーレは合計800両以上の機関車と3万5000両以上の貨車を保有するに至りました。今後は鉄道車両への大規模投資は抑制する方針です。

傘下の主要鉄道会社は以下の通りです。

ヴィトーリア・ミナス鉄道 (EFVM): 全長905km。ミナスジェライス州の鉱山からエスピリトサント州のトゥバラン港まで鉄鉱石を輸送します。2017年まで運営権を保有していました。鉄鉱石輸送だけでなく旅客輸送も行っており、2006年には11億人の旅客を輸送しました。
セントロ・アトランティカ鉄道 (FCA): 全長約7000kmに及ぶ広範な路線網を6州にまたがって運営していました。かつて国営鉄道会社RFFSAの一部であり、ヴァーレは2006年まで運営権を持っていました。
* カラジャス鉄道 (EFC): 全長892km。パラー州のカラジャス鉱山からマラニョン州のポンタ・ダ・マディラ港湾ターミナルまでを結び、主にカラジャス鉱山で採掘された鉄鉱石を輸送します。ヴァーレは2027年まで運営権を保有しています。全長340m、貨車340両を連結した長大列車の運行も計画されています。

このほか、観光用のオエステ・デ・ミナス鉄道も保有しています。

鉱滓ダム決壊事故

ヴァーレはミナスジェライス州での採掘活動に関連して鉱滓（こうさい：鉱石を採掘・精製した際に発生する残渣）を堆積させるためのダムを複数設置しています。しかし、これらのダムで痛ましい事故が発生しました。

2015年11月5日には、BHPグループとの合弁企業サマルコが所有するファンドオン鉱滓ダムが決壊し、下流域で甚大な被害と多数の死者を出しました。さらに、2019年1月25日には、ヴァーレが単独で所有するブルマジーニョ近郊のコレゴ・ド・フェイジョン鉱滓ダムが決壊。これもまた下流域に鉱滓が流れ出し、多数の死者・行方不明者を出し、河川環境を著しく悪化させる深刻な災害となりました。

2度目の事故発生後、ブラジル政府は災害対応費用としてヴァーレ社の資産約60億レアル（当時のレート）を差し押さえるとともに、約2億5千万レアルの罰金を科す措置を取りました。また、安全確保と情報開示を徹底させるため、年間3千万トンの鉄鉱石を産出するブルクツ鉱山の稼働を停止させる命令も出されています。これらの事故は、鉱山開発における環境・社会リスク管理の重要性を改めて浮き彫りにしました。

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