ヴィア・ドロローサ

ヴィア・ドロローサ：イエス・キリストの苦難の道を辿る

ヴィア・ドロローサ（ラテン語で「苦難の道」）は、新約聖書に記されたイエス・キリストが十字架を背負い、処刑場であるゴルゴダの丘へと歩んだとされる道です。この道は、キリスト教徒にとって非常に重要な巡礼地であり、イエスの受難を追体験する場所として、毎年多くの人々が訪れます。

ヴィア・ドロローサの概要

ヴィア・ドロローサは、エルサレム旧市街に位置し、その始点は旧市街北東のイスラム教地区にあるライオン門付近、終点は旧市街北西のキリスト教地区にある聖墳墓教会内です。この道中には、14の中継点（留）が設けられ、イエスの受難の場面を表しています。第1留から第9留までは旧市街の路地に、残りの5つは聖墳墓教会内にあります。

毎週金曜日の午後には、フランシスコ会主催で多くの巡礼者や観光客がこの道を練り歩き、イエスの苦難を追体験する儀式（十字架の道行き）が行われます。この儀式は、エルサレムだけでなく、世界中のキリスト教関連施設でも行われています。

イエスの受難とキリスト教の伝承

新約聖書の四福音書によると、イエスは過越祭のさなかに捕らえられ、総督ピラトによって十字架刑を宣告されました。そして、ゴルゴタの丘で十字架にかけられ、息絶えたとされています。しかし、三日目の朝に復活したと伝えられています。キリスト教の教義は、イエスの死と復活の上に築かれており、イエスは救世主として崇められています。

当時、ユダヤ人はローマ帝国の支配からの解放を期待していましたが、イエスの苦難は彼らに受け入れられませんでした。しかし、イエスの死と復活は、弟子や信者を生まれ変わらせ、イエスをメシアと告白する信仰を完成させました。イエスの死は、人類を原罪から清めるための自己犠牲であり、神と人類の関係を回復させたと解釈されています。ヴィア・ドロローサは、イエスが自己犠牲のために歩んだ道なのです。

歴史

ヴィア・ドロローサは、今日ではエルサレム観光の主要な目的の一つとなっています。巡礼者にとっては、罪の償いを求める神聖な場所です。ただし、紀元70年の第二神殿崩壊による市街地の破壊と、その後に建設されたローマの植民都市によって、イエスの辿った道を正確に再現することは不可能です。

しかし、多くの参加者は、イエスと同じ道を歩いていると信じ、イエスの苦痛を追体験することで、宗教的な体験を得ています。

ローマ時代には、ヴィア・ドロローサという概念はなく、留も設けられていませんでした。巡礼者によって、ゲッセマネの丘からゴルゴタの丘までの進行が慣習的に行われるようになりました。

14世紀には、フランシスコ会がエルサレムの管理を命じられ、平和的に聖地解放を目指し、1342年からヴィア・ドロローサが始められました。そのルートは何度か変更されています。

15世紀の作家ウィリアム・ウェイの著書には、当時すでに14の留があったことが記されています。しかし、現在の留と一致するのはわずかです。16世紀の文献には、12の留が現在の場所と一致していると記載されています。

17世紀末には、ヨーロッパの街道にある教会にも留の概念が導入され、巡礼者には贖宥状が与えられていました。1731年には、フランシスコ会所有のすべての教会で14の留を踏破した巡礼者に贖宥状が発行されるようになりました。

各留の解説

各留には、イエスの受難の場面が描かれています。以下に各留の詳細を解説します。

第1留：ピラトに裁かれる

イエスが裁判を受けた場所とされ、現在は男子校の敷地となっています。元々、アントニオ要塞があった場所で、キリスト教の伝承では、イエスがこの要塞でピラトに裁かれたとされています。毎週金曜日の午後、フランシスコ会の修道士の先導でここから行進が始まります。

第2留：有罪宣告を受け、鞭打たれる

イエスが鞭打たれたとされる場所で、フランシスコ会の所有地です。敷地内には、考古学博物館、フランシスコ会の子弟の学校、「鞭打ちの教会」、「有罪判決の教会」があります。

第3留：最初に倒れた場所

イエスが最初に倒れたとされる場所で、アルメニア使徒教会の教会が建てられています。福音書には、イエスが倒れたという記述はありませんが、13世紀以降の伝承に由来します。

第4留：悲しむ母マリアと出会う

アルメニア使徒教会の敷地内にあり、イエスが母マリアと出会ったとされる場所です。このエピソードも福音書には記述されていません。

第5留：キレネ人シモンがイエスを助ける

イエスの代わりに十字架を担いだキレネ人シモンを記念する場所です。この場所は、13世紀末にはフランシスコ会の所有地でした。1895年に教会が建立され、1982年に修復されました。

第6留：ベロニカがイエスの顔を拭く

ベロニカがイエスの顔を拭いたとされる場所で、ベロニカのベールが後世に語り継がれることになりました。

第7留：二度目に倒れた場所

イエスが二度目に倒れたとされる場所で、「裁きの門」が記念されています。この門は、死刑囚に対する罪状が読み上げられた場所とされています。

第8留：イエスがエルサレムの婦人たちに語りかける

イエスが、その苦難を見て嘆き悲しむ婦人たちに語りかけた場所です。この場所は、ゴルゴタの丘に非常に近い場所にあります。

第9留：三度目に倒れた場所

イエスが三度目に倒れたとされる場所で、コプト正教会の聖アンソニー教会があります。

第10留：衣服を剥ぎ取られる

イエスの衣服をくじで分け合ったとされるローマ兵の逸話に由来する場所で、聖墳墓教会の外部に聖堂があります。

第11留：十字架が立てられる

ゴルゴタの丘の右側に位置し、十字架が立てられたとされる場所です。

第12留：イエスの死

ゴルゴタの丘の左側に位置し、イエスが息を引き取った場所です。岩盤には、イエスの死の際に発生した地震によってできたとされる亀裂があります。

第13留：十字架の下の母マリア

イエスの母マリアに捧げられた場所で、イエスの遺体を抱きかかえたマリアの悲しみに焦点が当てられています。

第14留：イエスの墓

イエスの墓とされる場所で、ロトンダ（円形建築物）の中央にあります。石棺は簡素な作りですが、周囲には大理石製のモニュメントが設置されています。

現代の十字架の道行き

近年、カトリック教会では、イエスの復活を重視する傾向があり、第15留が加えられることもあります。また、福音書の記述に準じた新しい十字架の道行きも実践されています。

第15留

イエスの復活が成し遂げられたとされる場所で、ヴィア・ドロローサの真の終着点と位置付けられることがあります。

福音書の記述に準じた十字架の道行き

ゲッセマネの丘から始まり、福音書の記述に沿った場面が選ばれています。

新しい十字架の道

カトリック教会が推奨する新しい十字架の道で、個人の宗教体験を重視しています。