ヴィッカース 6トン戦車

ヴィッカース6トン戦車：戦間期の軽戦車と世界への影響

ヴィッカース6トン戦車（Vickers 6-ton tank、Six-tonner）は、戦間期にイギリスのヴィッカース・アームストロング社が開発した軽戦車です。ヴィッカースMk.Eとも呼ばれ、イギリス軍への採用はありませんでしたが、世界各国へ輸出され、多くの国の戦車部隊の基礎を築きました。第二次世界大戦においても、いくつかの国で現役で使用された重要な戦車と言えるでしょう。

開発と革新的な設計

1927年、カーデン＝ロイド・トラクター社が歩兵支援用軽戦車の開発を提案、翌年ヴィッカース・アームストロング社がMk.Eを完成させました。カーデン＝ロイド社の設計者も開発に関わっており、当時の技術革新が凝縮された設計が特徴です。

特筆すべきは、特許取得済みのボギー式サスペンションです。4個の小型転輪を1組としてリーフスプリングで懸架するこの方式は、シンプルながら優れた追従性を実現し、後の多くの戦車設計に影響を与えました。軽量かつ堅牢なマンガン鋼製の履帯は、約4800kmの走行距離を確保していました。車内通話装置に加え、後期型には短波無線機も搭載されました。

武装は、顧客の要望に応じて変更可能でした。双砲塔型と単砲塔型の2種類が用意され、単砲塔型では砲の右横に前方機銃を配置するなど、斬新な配置が採用されています。車体はリベット構造で、装甲厚は最大13mm、オプションで17mmまで強化できました。名称は6トン戦車ですが、装備により7～8トンに及ぶこともありました。

エンジンは、アームストロング・シドレー社が航空機用エンジンをベースに開発した空冷4気筒エンジンでしたが、空冷化による過熱が課題となりました。

世界各国への輸出と独自発展

イギリス軍には採用されませんでしたが、10年以上にわたって世界各国へ輸出されました。第一次世界大戦で使用されたルノーFT-17やビッカース・カーデン・ロイド豆戦車から更新を図る国々にとって、6トン戦車は魅力的な選択肢でした。

ソ連、日本、ギリシャ、ポーランド、ボリビア、タイ、フィンランド、ポルトガル、中国、ブルガリアなど、多くの国で運用されました。ソ連とポーランドではライセンス生産され、独自の改良型も開発されました。イギリス国内での生産数は150輌程度と推定されます。

Mk.Eの呼称は、それ以前の輸出用中戦車Mk.C、Mk.Dに続くものでしたが、輸出先の国によって「LIGHT TANK Mk.E」や「6 TON TANK」など、呼称に統一性はありませんでした。

バリエーション

ヴィッカース6トン戦車は、いくつかのバリエーションが存在します。

原型: 双砲塔型で、量産型とは異なるエンジンを搭載し、背の高いエンジンルームを持っていました。
Type A: 双砲塔型の機銃装備型で、輸出先のニーズに合わせて細部の差異が見られました。
Type B: オードナンスQF 3ポンド砲を標準装備とする単砲塔型で、砲塔は車体左側にオフセットされています。無線機搭載型では、砲塔後部にバスル（張り出し）が追加されました。
Mk.F: ロールス・ロイス・ファントムIIエンジンを搭載した発展型。エンジンルームを拡大したため、砲塔の位置が変更されています。ベルギーへの輸出は試作のみに終わりました。
Type B（後期型）: Mk.F規格の車体を用いた後期型。エンジンは従来型が用いられ、砲塔の位置は輸出先によって異なりました。
中ドラゴンMk.IV: ヴィッカース6トン戦車の足回りを使用した砲牽引車。
40mmポンポン砲搭載自走砲: タイに輸出された、ヴィッカース6トン戦車の足回りに40mmポンポン砲を搭載した自走砲。

各国での運用と影響

様々な国で運用され、それぞれ独自の発展を遂げました。

イタリア: 評価用として輸入され、足回りが後のM11/39中戦車などに影響を与えました。
ソ連: ライセンス生産され、T-26として1万輌以上が生産されました。
アメリカ: 試験用として輸入され、M1戦闘車やM2軽戦車の開発に影響を与えました。
日本: 研究用として輸入され、マンガン鋼製履帯や九五式軽戦車の開発に役立てられました。
ポーランド: ライセンス生産を行い、7TPとして運用されました。
ボリビア: グラン・チャコ戦争で使用されました。
タイ: 仏領インドシナとの戦争で使用されました。
フィンランド: 冬戦争で使用され、ソ連戦車からの鹵獲砲を搭載した改良型も運用されました。
中国: 第二次上海事変で日本軍と交戦しました。

結論

ヴィッカース6トン戦車は、イギリス軍には採用されませんでしたが、世界各国へ輸出され、各国独自の改良や発展を促し、戦車開発史に大きな影響を与えた戦車です。そのシンプルながらも革新的な設計、そして世界各国での運用は、20世紀前半の戦車開発を語る上で欠かせない存在と言えるでしょう。

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