ヴォルフガング・ホルツマイア

オーストリアのバリトン歌手、ヴォルフガング・ホルツマイア（Wolfgang Holzmair）は、1952年にザルツブルク郊外のフェックラブルックで生を受けました。

若い頃から音楽の才能を示し、ウィーン音楽院（現在のウィーン国立音楽大学）に進学。声楽を著名なヒルデ・レッセル＝マイダンに師事し、さらに歌曲解釈をエリック・ヴェルバのもとで深く学びました。これらの学びは、後の彼の主要な活動分野となるリート（ドイツ歌曲）とオラトリオにおける卓越した表現力の基盤を築きました。

キャリアの初期にあたる1974年には、イタリアの巨匠ルキーノ・ヴィスコンティ監督の映画『家族の肖像』のために、ロベルト・シューマンの歌曲『静かなる愛』を録音・歌唱するという、異色の経験も積んでいます。

ヴォルフガング・ホルツマイアは、リート歌手として世界の主要な音楽都市にその足跡を残しました。ロンドン、リスボン、ウィーン、ザルツブルク、ニューヨーク、デン・ハーグ、ワシントンD.C.、グラーツ、グスタート、パリなど、数多くの国際的な舞台で聴衆を魅了しました。彼のリート演奏は、その繊細な表現と深い洞察力で高い評価を得ています。共演したピアニストも錚々たる顔ぶれであり、イモージェン・クーパー、ティル・フェルナー、ラッセル・ライアン、ロジェ・ヴィニョル、ジェラール・ワイスといった名手たちとの共同作業を通じて、数々の名演を生み出しました。

また、コンサート歌手として、世界的に有名なオーケストラとも数多く共演しています。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、クリーヴランド管弦楽団、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン交響楽団などが挙げられ、それぞれ著名な指揮者のもとで、オラトリオや宗教曲、交響曲の声楽パートなどを歌い上げました。

リートやオラトリオでの活動に加え、オペラやオペレッタの分野でも国際的な舞台に立ちました。ダラス、トロント、シアトル、香港、エアフルト、リヨン、リールなど、世界各地の歌劇場に出演しています。演じた役柄は幅広く、彼の表現力の多様性を示しています。代表的なオペラ役としては、以下のようなものがあります。

モーツァルト：『魔笛』のパパゲーノ、『コジ・ファン・トゥッテ』のドン・アルフォンソ
R.シュトラウス：『ばらの騎士』のファーニナル男爵、『ナクソス島のアリアドネ』の音楽教師
ワーグナー：『タンホイザー』のヴォルフラム
ウェーバー：『魔弾の射手』のオトカル公爵
* J.シュトラウス2世：『こうもり』のアイゼンシュタイン侯爵、『ジプシー男爵』のオマニー

歌手としてのキャリアを積む傍ら、ヴォルフガング・ホルツマイアは教育者としても多大な貢献をしました。ザルツブルクにあるモーツァルテウム大学で、リート・オラトリオ科の教授として長年にわたり教鞭を執り、多くの若い才能を育て上げました。彼のもとからは、現在国際的に活躍する数多くの声楽家が輩出されています。著名な門下生には、ソプラノのクリスティアーネ・カーグ、アニヤ・シュロッサー、メゾソプラノのコルドゥラ・シュスター、テノールのマティアス・ヴィックラー、バス・バリトンのアンドレ・シューンなどがいます。また、ヨーロッパ各地や北米でも頻繁にマスタークラスを開催し、世界中の若い歌手たちに自身の持つ知識と経験を伝えています。

2014年をもって、主要なコンサート活動の第一線から身を引く意向を表明しましたが、完全な引退状態ではなく、現在も機会があれば舞台に上がったり、教育活動を続けたりしています。ヴォルフガング・ホルツマイアは、その多才な活動と深い音楽性によって、バリトン歌手、そして音楽教育者として、世界の音楽界に大きな足跡を残しています。

もう一度検索