三河鉄道キ10形気動車

三河鉄道キ10形気動車

三河鉄道キ10形気動車は、三河鉄道が自社開発したガソリンカーであり、1934年に日本車輌製造本店で製造されました。この気動車は、県内の交通環境が激動する中で運行を続けるために設計されたものです。

概要

1930年、鉄道省が岡多線で省営バスの運行を開始すると、三河鉄道にとってこれは大きな脅威となりました。特に、岡崎駅前から大樹寺までの路線は、1928年から三河鉄道が運行していた直営バスや、さらに合併した岡崎電気軌道の岡崎市内線と競合する結果となりました。このため、三河鉄道は岡崎駅前から挙母までの直通列車を運行することで、省営バスに対抗しようとしました。

しかし、直通運転には鉄道線と軌道線の電化方式の違いが障害となりました。鉄道線は1,500V、軌道線は600Vの直流電化であり、互換性が無かったためです。これを解決するための選択肢はいくつかありましたが、どれも困難を伴うものでした。そこで、三河鉄道は両方の路線で運行可能な小型軽量のガソリンカーを製造することを決定し、キ10形が生まれました。

車体設計

キ10形気動車は、長さ10,420mm、幅2,286mm、高さ3,745mmのコンパクトな構造を持っています。車体は半鋼製で、窓の上下にはウィンドウシルとウィンドウヘッダーと呼ばれる補強帯があり、耐久性を確保しています。興味深いのは、異なる高さのホームに対応するために、乗降扉の高さが2種類あり、1段のステップを内蔵している点です。また、鉄道線に対応した扉も備えており、通常の小型車としては珍しく3つの扉を持つ設計となっています。

定員は24名の着席と28名の立席、計52名であり、座席はロングシートタイプを採用しています。さらに、運転台は他と仕切られた半室式のデザインになっています。

機関と台車

キ10形は、アメリカのウォーケシャ社製6SRLガソリンエンジンを搭載しています。機械式の変速機を用い、逆転機も一体のギアボックスで動作します。台車は偏心ボギー台車と均等配置ボギー台車の2種類を採用し、設計は日本車輌製造の標準に基づいています。

運行と運命

運行が開始された当初、キ10形気動車は岡崎駅前から挙母への直通運用に充当されていました。しかし、日中戦争以後のガソリン不足に伴い、本形式は石油代用燃料を使用する装置を取り付けて維持運行されました。1941年には名古屋鉄道への吸収合併により改番され、名鉄キハ150形（151 - 153）として扱われましたが、その後は付随車に改装され蒲郡線で使用されました。ただし、戦後もその名残として気動車のままで在籍していました。

1954年、渥美線が豊橋鉄道に譲渡され、キ10形はその後制御車に改造されました。運用が続く中、時代の移り変わりとともに改番や改良を重ね、最終的には廃車の運命を辿りました。同時期に残された車両も前述の改造を受けましたが、それらも次々に廃車となり、1967年には2283が廃車となりました。

最後に残った2281と2282は1971年に廃車され、2002年の廃車体は検車区での作業場として使われましたが、2007年に解体されました。三河鉄道キ10形気動車は、分野の変化に柔軟に対応し、多くの人々の記憶に残る存在となりました。

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