三輔

三輔：前漢時代の首都圏、長安周辺地域とは

三輔とは、前漢時代の首都である長安周辺、関中地域を指す言葉です。この地域は、漢王朝にとって非常に重要な意味を持っていました。その成立の背景から、統治体制の変遷、社会構造との関わりまでを詳しく解説します。

三輔成立の背景

漢の高祖劉邦は、当初、故郷に近い雒陽（洛陽）を都とすることを考えていました。しかし、劉敬と張良の進言により、長安が都に定められました。劉敬はさらに、匈奴に対抗するため、旧六国の遺民や豪族を関中に移住させることを提案しました。これは、首都防衛と関中の開発を同時に進めるための策であり、地方の有力者を長安に集めることで、中央政府の強化を図るものでもありました。

初期の漢王朝は、中央政府が直接管理する関中とその周辺の郡県、そして皇族や功臣の子孫が支配する諸侯国という、3つの地域から構成されていました（郡国制）。

三輔の変遷

関中地域は、当初は内史が統治していました。しかし、景帝の時代に内史が2人制となり、左内史・右内史が置かれるようになりました。武帝の時代には、関中が2分割され、それぞれの内史が管轄地域を持つようになります。そして、太初元年（紀元前104年）に関中は京兆尹、右扶風、左馮翊の3つに分割され、それぞれを統治する官職として、京兆尹、右扶風、左馮翊が設置されました。この3つの地域と官職を合わせて「三輔」と呼ぶようになったのです。

また、長安近辺には皇帝陵が築かれ、その維持と長安からの人口増加に対応するため、豪族や高級官僚が陵邑に移住させられました。陵邑は太常が管理していましたが、後に三輔の管轄下に移されることになります。

三輔の統治と社会

三輔が設置された関中は、各地からの移住者が多く、風俗が乱れており、統治が難しい地域でした。そのため、武帝の時代には厳格な酷吏が三輔の長に任命されることが多かったのですが、宣帝の時代になると、社会構造の変化や儒家思想の浸透により、能吏が起用されるようになります。また、三輔とその周辺地域の監察を目的として司隷校尉が設置されたり、陵邑の管轄が太常から三輔に移されるなどの改革が行われました。

三輔には、豪族や高級官僚が集まり、政治・経済・文化の中心地として繁栄しました。しかし、同時に、社会的な問題も抱えており、その統治は常に課題でした。三輔の歴史は、漢王朝の首都圏における統治のあり方や、社会の変化を反映するものと言えるでしょう。

まとめ

三輔は、前漢時代の首都圏である長安周辺地域を指し、政治・経済・文化の中心地として重要な役割を果たしました。その成立の背景には、首都防衛や地方勢力の抑制という目的があり、統治体制や社会構造の変化とともに、そのあり方も変遷していきました。三輔の歴史を理解することは、漢王朝の歴史を深く理解することにつながります。

参考文献
（後漢）班固著、（唐）顔師古注『漢書』 巻19下百官公卿表下
福島大我「前漢代における〈首都圏〉と皇帝制度の変遷」（初出:『専修史学』49号（2010年）/分割改題所収:「前漢代における〈首都圏〉の成立」・「前漢代における〈首都圏〉の展開」福島『秦漢時代における皇帝と社会』（専修大学出版局、2016年） ISBN 978-4-88125-303-8）

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