司隷校尉

司隷校尉：首都圏を統べる古代中国の要職

司隷校尉（しれいこうい）は、古代中国に存在した官職であり、前漢、後漢、魏、西晋などの時代に置かれました。その主な職責は、朝廷内の大臣や高官（皇帝の親族を含む）を監察することでした。この役職は、前漢の武帝が巫蠱（ふこ）の禍による社会不安の高まりを受けて、征和4年（紀元前89年）に初めて設置したとされています。

司隷の語源と初期の役割

『漢書』百官公卿表の注釈によれば、「司隷」とは徒隷を司るという意味があります。当時の都には、造営工事要員や各種労働力として、刑余の徒や奴隷（徒隷）が多数存在していました。司隷校尉は、これらの人々を管理し、都で騒擾が起こらないようにする役割を担っていたと考えられています。

統括範囲と職務内容

司隷校尉は、漢の首都である長安または洛陽を取り巻く、以下の7郡を統括していました（司隷校尉部、のちの司州）。

河南尹
河内郡
河東郡
弘農郡
京兆尹
右扶風
* 左馮翊

司隷校尉の仕事は、地方の長官である刺史と似ていますが、その対象が異なります。刺史が地方の上級役人を取り締まるのに対し、司隷校尉は中央の官吏を取り締まるため、刺史よりも格上とされていました。これは、中国の制度では首都周辺は朝廷直轄として中央官の扱いとなっていたためです（後世の直隷省）。

また、『漢官儀』によると、司隷校尉は御史大夫、尚書令とともに「三独座」と称され、特別な席が与えられるほどの顕官でした。

権限の変遷

当初、司隷校尉は節（せつ）を持ち、兵を指揮する権限を持っていましたが、後に兵権は廃止されました。元帝の初元4年（紀元前45年）には、諸葛豊が司隷校尉であった時に節を没収されています。成帝の元延4年（紀元前9年）には、司隷校尉の官が一時廃止されましたが、哀帝の綏和2年（紀元前7年）に哀帝が即位すると、校尉の付かない司隷として復活し、大司空の直轄となりました。

後漢以降の変容

後漢の成立とともに、司隷校尉は再び置かれました。霊帝の時代に刺史の他に州牧が設置され、地方の行政や軍事を統括するようになると、州牧が太守よりも上位になりました。これに伴い、司隷校尉の役割も監察官から、首都周辺の守備や行政を担当する中央地区長官へと変容し、次第に影響力を増していきました。しかし、献帝の建安18年（213年）に従来の州区分が廃止され、古代の九州制が復活したため、司隷部も廃止となりました。

魏の成立とともに司隷校尉は復活し、西晋もこれを引き継ぎましたが、前趙が中原を占領するに及んで洛陽周辺を荊州に統合したため、司隷校尉は消滅し、以後復活することはありませんでした。

東晋は華北を失ったため、司隷校尉は設置されませんでした。ただし、同様に華北を実効支配していなかった蜀漢では、劉備が即位した時に張飛が司隷校尉に就任しています（車騎将軍との兼務）。

司隷校尉の秩禄は比二千石でした。

司隷校尉は、時代と共に役割を変えながらも、中央政府において重要な地位を占めた官職でした。その変遷を追うことで、古代中国の政治制度や社会情勢の変化を垣間見ることができます。

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