左馮翊

左馮翊（さひょうよく）は、中国にかつて存在した行政区画であり、同時にその行政区画を監督する官名でもありました。前漢から後漢にかけて、現在の陝西省西安市および渭南市一帯に設置され、当時の都城であった長安付近の県を管轄していました。

左馮翊の役割と地位

左馮翊は、官名としては京兆尹（けいちょういん）、右扶風（うふふふう）とともに三輔（さんぽ）を構成しました。三輔とは、都である長安周辺を管轄する三つの重要な官職のことで、左馮翊はその一つとして、都の治安維持や行政を担っていました。県の統治を行う点では郡と同格でしたが、人口が多く、特に前漢においては畿内を管轄したことから、朝廷の重要事項を議論する参議にも参加し、宰相候補生の適性を見る場にもなるなど、非常に重要な役職でした。

左馮翊の沿革

左馮翊の前身は、秦代に都である咸陽（かんよう）の付近を治めた内史（ないし）でした。前206年に項羽（こうう）が塞国（さいこく）を、翌前205年に前漢が成立すると、この地域は河上郡（かじょうぐん）と改称されました。しかし、前198年には再び内史の管轄に戻され、前135年（建元6年）に内史が左右に分割された際に、左内史の管轄とされました。そして、前104年に左馮翊と改称され、その名が定着しました。

後漢になっても左馮翊は引き続き置かれましたが、都城が洛陽（らくよう）に移されたため、その地位は相対的に低下しました。しかし、依然として重要な地域であり続けました。『漢書』地理志によれば、1年（元始）時点では県数24、戸数235,101、人口917,822を擁していました。その後、『後漢書』地理志によると、140年（永和5年）時点では県数13、戸数37,090、人口145,195と、戸数と人口は減少していますが、依然として多くの人々が暮らしていました。

三国時代の魏（ぎ）の時代になると、左馮翊は馮翊郡（ふうよくぐん）と改称され、その名前は歴史の中に姿を消しました。しかし、その役割と重要性は、中国の歴史に深く刻まれています。

左馮翊は、単なる行政区画や官名にとどまらず、中国の政治、経済、文化の中心地であった長安を支える重要な役割を果たしました。その変遷は、中国の歴史の流れを反映しており、その研究は中国史を理解する上で欠かせない要素の一つと言えるでしょう。

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