上毛野穎人

上毛野穎人（かみつけの の かいひと/ひでひと）

上毛野穎人は、平安時代初期に活躍した貴族であり、漢詩人としても知られています。主計頭・上毛野大川の子として生まれ、公から朝臣へと姓を改めました。最終的な官位は従四位上・東宮学士です。

生涯

文章生として歴史を学んだ後、延暦20年（802年）に右少史に任官。延暦23年（804年）には遣唐使に録事として加わり、唐に渡りました。その際、通訳がうまく機能しない場面で、筆談によって唐の人々と意思疎通を図ったという逸話が残っています。翌延暦24年（805年）に帰国し、正六位上行左少史兼常陸少目に任じられました。

帰国後、穎人はその文才を活かし、延暦25年（806年）に右大史、大内記、左大史と文筆を担当する官職を歴任。大同2年（807年）には大外記に就任しました。大同4年（809年）には、遣唐使としての功績が認められ、外従五位下に叙せられました。

大同4年（810年）に平城上皇が平城京に移ると、穎人は大外記として平城京に出仕。弘仁元年（810年）には、公姓から朝臣姓へと改姓しました。同年9月に発生した薬子の変では、平城上皇が東国へ向かおうとする中、混乱を極める状況下で、穎人は平城京を脱出して平安京へ向かい、嵯峨天皇に事の顛末を報告しました。この功績により、従五位上に叙せられています。その後も弘仁2年（811年）には度者を、弘仁3年（812年）には山城国の土地を賜与されています。また、弘仁6年には『新撰姓氏録』の編纂事業にも参加しました。

弘仁8年（817年）には、皇太子・大伴親王（後の淳和天皇）の東宮学士に転じ、民部大輔も歴任しました。弘仁10年（819年）に正五位下、弘仁11年（820年）には従四位下と昇進を重ね、最終的には従四位上に至りました。晩年は酒に浸る日々を送ったと伝えられています。弘仁12年（821年）8月18日、56歳で亡くなりました。

人物

上毛野氏は、元々帰化系の田辺氏であり、上毛野氏の氏名は、古代豪族の上毛野氏を僭称したものと考えられています。田辺氏は外交や学問の分野で活躍した氏族であり、穎人もその出自を活かし、遣唐録事や『姓氏録』編纂に携わったと考えられます。

また、漢詩人としての才能も高く、『凌雲集』などの漢詩集に作品が収録されています。特に「春日帰田直疏」という詩からは、薬子の変以前の官途における不遇を嘆いていた様子が窺えます。この不遇が、薬子の変の際に嵯峨天皇のもとへ駆けつけた動機になった可能性も指摘されています。

官歴

時期不詳：文章生
延暦20年（801年）12月：右少史
時期不詳：兼常陸少目
延暦23年（804年）：遣唐録事
延暦25年（806年）4月：右大史。7月：大内記。8月：左大史
大同2年（807年）6月：大外記
大同4年（809年）9月1日：外従五位下
弘仁元年（810年）：公姓から朝臣姓に改姓。9月11日：従五位上（内位）
弘仁2年（811年）3月14日：賜度一人
弘仁3年（812年）正月12日：兼因幡介
弘仁7年（816年）正月：止因幡介
弘仁8年（817年）2月6日：東宮学士
時期不詳：民部大輔
弘仁10年（819年）正月7日：正五位下
弘仁11年（820年）正月7日：従四位下
時期不詳：従四位上
弘仁12年（821年）8月18日：卒去（東宮学士従四位上）

参考文献

佐伯有清『新撰姓氏録の研究』吉川弘文館、昭和38年（研究篇）・昭和57年（考證篇第二）・昭和58年（考證篇第五）
森田悌『日本後紀 （下）』講談社学術文庫、2007年
朧谷寿「上毛野穎人」『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞社、1994年

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