上泉信綱

上泉信綱（かみいずみのぶつな、あるいは、こういずみのぶつな）は、戦国時代に活躍した著名な兵法家であり、剣豪として名を馳せました。特に、新陰流（しんかげりゅう）の創始者として広く知られています。一時期は「上泉伊勢守（かみいずみいせのかみ）」という武家官位名も用いていました。

生涯

出自と生年

上泉信綱は、上野国勢多郡桂萱郷上泉村（現在の群馬県前橋市上泉町）またはその近辺で生まれたとされています。生年ははっきりとは分かっておらず、1508年（永正5年）頃ではないかと推測されています。没年についても諸説あり、1577年（天正5年）とする説が有力ですが、1582年（天正10年）とする説も存在します。

同時代史料

同時代の史料として、山科言継の日記『言継卿記』に「大胡武蔵守」として記録されています。この日記には、1569年から1571年にかけて、上泉信綱が32回登場します。日記によると、信綱は言継に軍配を伝授したり、従四位下に叙せられたことを語ったりしています。また、梨本宮門跡や太秦真珠院で兵法を披露したという記述もあります。

その他の古文書

長野氏の軍制を記した古文書には、信綱が「上泉伊勢守時則」として登場します。また、足利義輝に兵法を披露した際の感状が丸目家に所蔵されていますが、この感状の真偽については議論があります。その他、柳生宗厳や宝蔵院胤栄に与えた印可状も存在しており、これらの印可状では「上泉伊勢守藤原信綱」と署名されています。

伝承

上泉信綱は、藤原秀郷流の大胡氏の一族であり、上泉城主であったと伝えられています。彼は陰流、神道流、念流などの諸流派を学び、その奥義を究めた上で、特に陰流から「奇妙を抽出して」新陰流を大成したとされています。長野氏に仕えた後、武田信玄の仕官要請を断り、新陰流を広めるために諸国を旅したという伝承もあります。また、袋竹刀を発明したとも言われています。

信綱の剣の師

信綱がどの流派の誰に師事したかについては諸説あります。

陰流

陰流については、愛洲移香斎（あいすいこうさい）を師とする説と、その子である元香斎小七郎を師とする説があります。どちらが正しいかは確定していません。

神道流

神道流については、松本備前守（まつもとびぜんのかみ）を師とする説が有力です。ただし、直心影流では「杉本備前守政元」が師であると主張しています。また、信綱が飯篠長威斎の流伝になる神道流を修めたとする説もあります。

箕輪長野氏家臣時代

信綱は、長野氏に仕え、北条氏康や武田信玄の大軍と戦ったとされています。長野氏滅亡後、武田信玄から仕官の誘いを受けましたが、これを断ったという逸話があります。

諸国流浪と剣術指南

長野氏滅亡後、信綱は新陰流を広めるために諸国を旅しました。この際、神後伊豆守や疋田文五郎などの弟子が同行したとされています。上洛の途中、伊勢神宮で柳生のことを聞き、大和へ向かったという説や、伊勢の北畠具教を訪ねて奈良宝蔵院の胤栄と柳生宗厳に出会ったとする説などがあります。この旅で、柳生宗厳や胤栄に印可状を与え、丸目蔵人佐に目録を与えたとされています。

箕輪城落城年の問題

箕輪城の落城年については、1566年（永禄9年）説が有力です。そのため、1563年から信綱が諸国を往来していたとする伝承や、それ以前に発行されたとされる印可状の年代については議論の余地があります。

没年

信綱の最期についても諸説あります。1577年（天正5年）に大和の柳生谷で亡くなったとする説が有力ですが、1582年（天正10年）に小田原で没したとする説もあります。柳生には墓ではなく供養塔が存在します。

子孫の上泉家による異伝

信綱の子孫と伝える上泉氏は、独自の伝承を持っており、新陰流などが伝える伝承とは異なる点を主張しています。この上泉家の伝承では、信綱が松本備前守から天真正伝香取神道流を、愛洲久忠から陰流を修めたとしています。また、信綱の没年も1582年（天正10年）であるとしています。

その他

前橋市上泉町の諏訪神社で行われる上泉獅子舞は、信綱も奉納したと伝えられています。

門下

信綱から免状を与えられた主な門下には、疋田景兼、柳生石舟斎、丸目蔵人佐、香坂要などがいます。

官歴

信綱は、1570年（永禄13年）に従四位下に叙せられました。

上泉信綱が登場する作品

上泉信綱は、多くの小説や漫画、ドラマの題材となっています。これらの作品を通して、彼の人物像や剣術の腕前が後世に伝えられています。

代表的な作品

- 池波正太郎『上泉伊勢守』
- 山田風太郎『信玄忍法帖』
- 白土三平『忍者武芸帳』
- 新田次郎『武田信玄火の巻』
- 永岡慶之助『上泉伊勢守信綱』
- 海道龍一朗『真剣―新陰流を創った男、上泉伊勢守信綱』

まとめ

上泉信綱は、戦国時代を代表する剣豪であり、新陰流の創始者として後世に大きな影響を与えました。彼の生涯は多くの謎に包まれていますが、その剣術の腕前は多くの人々に語り継がれています。この記事を通して、上泉信綱の人物像と新陰流の魅力を少しでも感じていただければ幸いです。

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