大胡氏

大胡氏（おおごしし）

大胡氏は、鎌倉時代から室町時代にかけて上野国（現在の群馬県）赤城山南麓を拠点に勢力を持った武士の一族です。上州八家の一つに数えられ、藤原秀郷を祖とする藤原姓足利氏（源姓足利氏とは別系統）の庶流にあたります。足利成行の庶子である重俊が「大胡太郎」を称したのが始まりとされています。

歴史

平安時代から鎌倉時代

大胡氏は、平安時代から上野国大胡郷（現在の前橋市大胡地域およびその周辺）を拠点としていました。居城とした大胡城は、現在の大胡城址近戸曲輪付近に位置し、館は城址西方の養林寺にあったと推定されています。

家紋は『関東幕注文』に陣幕紋として「かたはミに千鳥すこそ」がみられます。また、子孫と伝えられる牛込氏の家紋は「洲浜」です。

系譜上の初代は足利成行の庶子・重俊で、『尊卑分脈』には彼とその子・成家のみが記載されています。

御家人としての活動

大胡氏が文献に初めて登場するのは『平治物語』で、平治の乱に参加したことが記されています。治承・寿永の乱では源氏方として参加し、『平家物語』には、治承4年（1180年）の源頼朝軍に大胡太郎が、文治元年（1185年）の源範頼の九州征伐に大胡三郎実秀が従軍したと記録されています。

鎌倉幕府のもとでは御家人として活動し、『吾妻鏡』や『義経記』に将軍の随兵として登場します。『吾妻鏡』には、建久元年（1190年）の大胡太郎を初めとして、暦仁元年（1238年）の大胡左衛門次郎・大胡弥四郎、寛元4年（1246年）の大胡五郎光秀、正嘉2年（1258年）の大胡太郎跡・大胡掃部助太郎などの名が見られます。

浄土宗への信仰

大胡氏は浄土宗を篤く信仰しました。『法然上人行状絵図』によると、大胡小四郎隆義は京都滞在中に法然と知り合い、帰郷後も深く帰依し、その子・太郎実秀も同様に帰依したと伝えられています。隆義・実秀親子は法然に手紙で質問を送り、「大胡消息」として法然からの返答が残されています。これは浄土宗の基本文献としても重要視されています。また、『念仏往生伝』には、大胡小四郎秀村が念仏修行に励み、正元元年（1259年）に亡くなる5年前に仏が夢に現れたという記述があります。

南北朝時代の没落と別系統の大胡氏

観応元年（1350年）には、大胡氏は山上氏と共に足利尊氏方の大嶋義政の下で、足利直義側の桃井直常らと笠懸野で戦い敗れるなど、室町時代も上野で活動していました。鹿島文書には、貞治4年（1365年）に大胡掃部助秀能が、大胡上総入道跡が領した常陸国の土地を鹿島神宮へ寄進した記録が残っています。1373年には、大胡秀重が長楽寺へ田畑を寄進しています。

その後、「上総入道跡」は新田氏に与えられ、元弘の乱で鎌倉幕府方についた大胡氏は所領を没収され没落したとも指摘されています。『群馬県新百科事典』では、惣領である大胡上総入道跡が南北朝時代に滅亡し、大胡氏は一族が跡を継いだとされています。

文明元年（1469年）には、太田資清が川越城で主催した連歌会に、大胡氏と伝わる「修茂」が出席しています。しかし、彼の経歴は明らかではありません。

大胡城は横瀬国繁によって攻略され、益田氏が城主となったという伝承もあります。『藤原姓益田氏系図略記』によれば、藤原秀郷9代孫の益田政義から始まり、6代後の行綱が大胡城を築城したとされています。次の行茂は嘉吉元年（1441年）に討死し、享徳年間には大胡城3代目の修茂が那波氏の攻撃を防ぎましたが、修茂の子・茂政の代に那波氏の攻勢に敗れ新田へ逃れたと伝えられています。

その後、大胡郷は厩橋城を拠点とする長野氏の勢力下に入り、大胡氏はこの地を追われたか、長野氏一族が大胡氏を継承したとも言われています。しかし、藤原姓の大胡氏一族は残っていたらしく、上杉輝虎（謙信）に従う上州の諸将が記載された永禄4年（1561年）の『関東幕注文』に大胡氏の名が見られます。

一族の上泉氏は、大胡城支城の上泉城を支配して大胡城を保持し続けましたが、上泉信綱の時代に後北条氏の攻勢により大胡城を失いました。

上杉謙信が大胡周辺を支配した時期には、大胡常陸介高繁という人物も史料に見られますが、毛利姓であることから、大胡重俊の家系とは異なり、厩橋城主・北条高広の一族と考えられています。

一族の大胡重行は、後北条氏の北条氏康の招きを受け、大胡城から武蔵国牛込へ移住しました。永禄2年（1559年）の『小田原衆所領役帳』には、大胡民部が江戸牛込・比々谷本郷などを所領としていたため、永禄年間には既に牛込にいたとされています。同地に赤城神社（現在は移転）を創建したと伝えられています。牛込に移った大胡一族は、勝行の代に牛込氏を称しました。

牛込氏

武蔵へ移った牛込氏（大胡重行の子孫）は後北条氏の配下となり、故郷の赤城神社を勧請して牛込の地に赤城神社を創建しました。勝行の子・勝重の代に小田原征伐に遭い、後に徳川氏に仕えて旗本となりました。牛込俊重は徳川忠長に配され、その処罰後一時的に他家預かりの身となりましたが、赦免後、500石の旗本となりました。しかし、次の勝正の代に無嗣断絶で改易されました。勝正の弟・重恭は分家し、300俵のち500石を知行し、その子・重義の代に1100石となり、この系統が幕末まで続きました。

牛込氏は大胡成家からの系譜を『寛政譜』などで伝えていますが、鎌倉時代など中世に見られる大胡一族の名とは全く異なるため、『大胡町誌』では、牛込氏が伝えていた先祖を『尊卑分脈』の系譜（大胡重俊－成家まで）に繋げただけではないかと指摘しています。

東京都新宿区の曹洞宗宗参寺には、牛込氏の墓所があります。

異系図

『粕川村誌』によると、深津村（現・前橋市粕川町深津）に大胡氏系図が伝わっており、他の系図とは異なる記述が見られます。成家の弟に友成がおり、村の小字に名を残しているとされます。また、成家の長男・太郎の後は無く、次男の彦次郎俊光の子孫が跡を継いだとされています。俊光の子は宮内少輔光兼、その子には太郎光俊・次郎光重・左馬允光房・十郎兵衛光久がおり、光重の子には孫太郎光成・盛宗・光長・光秀がいました。光成は新田義貞の鎌倉攻めに参加したと伝えられています。光成の子は太郎光澄と範順がおり、光澄は新田義宗に従い四国で戦死したとされます。そして光澄の子・彦太郎は鎌倉公方足利氏満から所領を安堵されたと伝えられています。また、左馬允光房の子には兵庫助光能がおり、常陸国に住んだとされています。

系譜

(省略)

脚注

(省略)

参考文献

(省略)

関連項目

藤原秀郷
足利氏 (藤原氏)
上泉信綱
前橋市
* 大胡町

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