上海天長節爆弾事件

上海天長節爆弾 事件

上海天長節爆弾事件は、1932年 4月29日に第一次上海事変の末期、上海の虹口公園（現在の魯迅公園）で発生した爆弾テロ事件です。この事件は、日本軍が上海における軍事行動の勝利を祝う目的で天長節祝賀式典を行っていた際に発生し、多数の民間人が死傷しました。この事件は、虹口公園爆弾事件とも呼ばれています。

事件の背景

1932年、日本と中華民国の両軍は上海国際共同租界周辺で軍事衝突（第一次上海事変）を起こしていました。この事変は、日本の関東軍が引き起こした満州事変と、その後の満州国樹立に対する欧米列強の関心をそらす目的があったとされています。しかし、この事変は中国国内の反日感情を激化させ、状況をさらに悪化させました。

4月29日は天長節であり、日本の上海派遣軍と在上海日本人居留民は、虹口公園で大観兵式と天長節祝賀会を開催することになりました。この式典は、日本軍の上海における軍事的な勝利を祝うものでもありましたが、軍事的な制圧下にある地域で要人が集まる式典は、非常に危険な行為でした。実際、事件発生の一ヶ月前には、同じ虹口公園で日本人要人を狙った襲撃事件が発生していました。

警戒として、上海派遣軍司令官の白川義則大将は、会場への移動中に何度も車のナンバープレートを交換するなどの用心をしていました。しかし、会場が上海でも有数の大きさの公園であることや、多くの群衆が出入りするため、完全に警戒することは困難でした。その結果、攻撃の危険は現実のものとなりました。

事件の経緯

事件の実行犯は、朝鮮半島からの日本の支配を駆逐することを目的とする大韓民国臨時政府の内務総長である金九が差し向けた尹奉吉です。金九は、以前から後方攪乱や要人暗殺を計画していましたが、いずれも失敗に終わっていました。この天長節の式典は、攻撃を実行する絶好の機会と捉え、尹奉吉を送り込んだのです。

この計画には、中華民国行政院代理院長だった陳銘樞などが協力し、資金を提供しました。また、当日の祝賀会場への入場は中国人が禁止されていたため、日本語が堪能で日本人に見える実行犯が必要でした。

金九は、上海兵工廠の庫長だった金弘壹に水筒型と弁当型の爆弾の製造を依頼しました。これは、日本の新聞が水筒と弁当だけを持参するように告知していたためです。金弘壹は、中国人技師の向佽濤と協力して爆弾を製作しました。これらの爆弾は、以前の李奉昌による昭和天皇暗殺未遂事件の教訓を活かし、強力なものが作られました。

4月29日午前10時、式典が始まりました。午前11時40分ごろ、天長節を祝賀するための礼砲が発射され、君が代が斉唱されました。雨が降り出したため、群衆がざわつき始めたその時、尹奉吉は群衆を抜け出し、水筒型の爆弾を式台に投げつけました。彼の目的は、植田謙吉と白川義則の両司令官の殺害であり、他の人間を巻き込まないように威力の大きい弁当型爆弾は使用されませんでした。

この爆発で、上海居留民団行政委員会会長の河端貞次医師が即死しました。また、第9師団長の植田謙吉中将、第3艦隊司令長官の野村吉三郎海軍中将、在上海公使の重光葵、在上海総領事の村井倉松、上海日本人居留民団書記長の友野盛らが重傷を負いました。重光公使は右脚を失い、植田中将は左脚を失い、野村中将は隻眼となりました。白川大将は、その後5月26日に死亡しました。

実行犯の尹奉吉は、その場で自殺を図りましたが取り押さえられ、逮捕されました。軍法会議の結果、12月19日に金沢刑務所で銃殺刑となりました。

事件後

逮捕された尹奉吉は、爆弾の出所を厳しく追及されました。彼は李春山という人物から爆弾を渡されたと供述しましたが、それは金九を逃がすための嘘でした。警察は、李春山が李祐弼ではないかと疑い、家宅捜索を行いましたが、李祐弼は既に逃亡していました。しかし、安昌浩が家を訪れたため、その場で逮捕されました。

日本領事館警察は、安昌浩ら大韓民国臨時政府のメンバー17名を逮捕しました。首謀者である金九は、一時アメリカ人宅に匿われましたが、後に上海を脱出し嘉興へと向かいました。日本は金九に60万元の賞金をかけました。

事件後、中国人の対朝鮮人感情は好転し、大韓民国臨時政府には中国各地から献金が集まりました。国民政府も臨時政府に同盟国の待遇を与えました。しかし、臨時政府は独立運動の拠点だった上海を失い、拠点を杭州に移すことになりました。また、この事件が、後の朝鮮排華事件に繋がる事になりました。

梅亭

事件が発生した場所は、現在の魯迅公園の北側にある池のほとりです。中韓国交正常化以降、事件現場を示す石碑と尹奉吉を記念する梅亭が建立されました。梅亭は、尹奉吉の号である「梅軒」に因んで名付けられました。

梅亭にある建物は、現在では尹奉吉の生涯や事件の概要を展示する資料館となっています。資料館には、尹奉吉の処刑の際に使用された木杭などの資料が展示されており、韓国人観光客の主要な観光スポットとなっています。

この事件は、日中関係と朝鮮独立運動に大きな影響を与えただけでなく、その後のアジアの歴史にも大きな影響を与えました。

もう一度検索