上田寛 (俳優)

上田寛：映画史を彩った名脇役

上田寛（うえだ ひろし）は、1910年7月16日にロシアのウラジオストクで生まれ、昭和期の日本映画界で活躍した俳優です。本名も同じく上田寛。そのキャリアを通じて300本以上の映画に出演し、特に名脇役としてその名を刻みました。出演作品は時代劇から現代劇、コメディまで多岐にわたり、その幅広い演技力で観客を魅了しました。

生い立ちと映画界への足跡

1923年、上田は家族とともに東京へ引き揚げますが、その直後に関東大震災に見舞われるという困難を経験します。その後、映画館の映写技師や宣伝係、映画ポスターの印刷業など、映画に関わる様々な職を経験。この経験が、後に俳優としての道を歩む上で大きな糧となったことは想像に難くありません。

朝日キネマに入社後、俳優業の傍らタイトル係として働いていた上田でしたが、1931年、同社の社長の推薦で帝国キネマ太秦撮影所へ入社。高見貞衛監督の『未亡人』で二枚目役としてデビューするも、自身の適性を三枚目役に見出し、新興キネマ、大映へと活躍の場を広げ、多くの作品で存在感を発揮しました。

几帳面な性格と記録魔

上田は非常に几帳面な性格の持ち主であり、自身の出演作品を全て記録していたことでも知られています。その記録によると、帝国キネマ・新興キネマ京都撮影所で119本、新興キネマ大泉撮影所で83本、大映京都撮影所で171本、その他東宝・松竹・東映などで25本の映画に出演。この記録は、彼の映画への情熱と几帳面さを物語る貴重な資料となっています。

映画からテレビ、そして舞台へ

1960年に大映を退社した後は第一協団に所属し、映画だけでなく200本以上のテレビドラマ、さらには大阪歌舞伎座や梅田コマ劇場などの舞台にも出演するなど、幅広いジャンルでその才能を発揮しました。

突然の引退とその後

1965年、日本教育テレビ（現・テレビ朝日）製作のテレビドラマ『特別機動捜査隊』第181回「空白」以降、上田の出演作品は見当たらず、この頃に芸能界を引退したと考えられています。引退後は、その画才を生かして西陣織の図案製作に転向しましたが、その後の消息は不明であり、没年も明らかになっていません。

主な出演作品

上田寛は数多くの映画に出演しており、その一部を以下に紹介します。

未亡人（1931年）
上海（1932年）
あゝ玉杯に花うけて（1935年）
花嫁設計図（1936年）
愛怨峡（1937年）
母に捧ぐる歌（1939年）
お夏清十郎（1946年）
痴人の愛（1949年）
透明人間現わる（1949年）
滝の白糸（1952年）
噂の女（1954年）
残菊物語（1956年）
炎上（1958年）
歌麿をめぐる五人の女（1959年）
* ぼんち（1960年）

これらの作品以外にも、数多くの作品でその名演技を披露しました。上田寛は、その脇役としての存在感と幅広い演技力で、日本の映画史に確かな足跡を残した俳優と言えるでしょう。

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