上田銀山

上田銀山

上田銀山（うえだぎんざん）は、かつて新潟県魚沼市の山中に存在した銀と鉛の鉱山です。江戸時代の寛永年間（1624年〜1644年）に採掘が始まり、中断期間を挟みながら安政年間（1854年〜1860年）まで操業が続けられました。

銀鉱の発見と開発

現在の銀山平と呼ばれるこの地域は、枝折峠の奥深く、古くから湯之谷郷や小出島の住民が川での漁や山菜採りを行う山間部でした。1641年（寛永18年）、湯之谷郷折立の住人である源蔵が、只見川の川岸で銀を含む鉱石を発見したことが銀山開発の発端となります。この発見は高田城主である松平光長に伝えられ、さらに幕府大老の耳に達し、高田藩に対して銀山の開発が命じられました。

当時、この只見川上流地域はあまりにも山深く、高田藩と隣接する会津藩との間で国境が明確でない状態でした。銀鉱山の発見は会津藩の関心を刺激し、両藩の間で国境を巡る争いが勃発します。この問題の解決には15年もの歳月がかかりましたが、最終的に国境は只見川の中央と定められ、当初の計画通り、公儀（幕府）の資金によって銀山開発が進められることになりました。鉱山開発のための工事は1656年（明暦2年）に完了し、翌1657年には鉱山開きの神事が執り行われ、本格的な採掘が開始されました。

隆盛を極めた鉱山都市

銀山が開発されると、小出島からこの地に至る峠道には8ヶ所の宿場と3ヶ所の番所が設けられ、物資や人の往来を支えました。銀山の中心地であった須原口には本陣が置かれ、採鉱現場近くには十二山神社が建立されるなど、山深い秘境に突如として大規模な鉱山都市が出現しました。銀山の開発を知り、全国各地から多くの人々が集まります。職人、商人、鉱夫といった鉱山関係者に加え、遊女なども移り住み、上田銀山は空前の賑わいを見せました。

高田藩による採掘は25年近く続きましたが、1681年に藩主松平光長が高田騒動により改易されたため、採掘は一時中断されます。その後、高田の商人である須浜屋が5年間の期限付きで経営を引き継ぎ、採掘を再開しました。1689年（元禄2年）には只見川を挟んだ対岸の会津藩領からも銀鉱が発見され、白峯（しらぶ）銀山と名付けられます。上田銀山と白峯銀山は合わせて大福銀山と呼ばれるようになり、江戸幕府はこれらの銀山を直轄経営とし、河村瑞賢を山支配に任じました。幕府へ納められた良質の銀（花降銀）は、1698年（元禄10年）には1,044貫（現在の約4,000kg）に達しました。

当時、只見川と北ノ又川沿いの大福銀山地域には、関係者を合わせて約2万5千人もの人々が居住する巨大な鉱山都市が形成され、その中心地は千軒原と呼ばれていました。そこには十二山神社の他に三つの寺院があり、温泉宿や遊女宿なども存在していました。ただし、この地域は全国でも有数の豪雪地帯であり、雪に閉ざされるため、入山できるのは旧暦の4月から10月までという厳しい条件下での操業でした。冬期間、多くの人々は山を下りましたが、施設の維持管理のため、少数の越冬隊が残って厳しい冬を乗り越えていました。

度重なる災禍と閉山

質の高い銀を産出し、諸制度も確立されて順調に経営されていた上田銀山でしたが、1706年（宝永3年）、坑内排水作業のミスから大規模な坑道崩落事故が発生し、多数の死傷者が出ました。幕府はこの事態を受けてやむなく採掘を一時停止する「留山」の措置をとりました。

その後も、小出島の松原氏（1706年〜1708年）、江戸の森田屋（1709年〜1711年）、そして下野国の正田利右衛門（1850年〜1859年）らによって、銀や鉛の採掘が続けられました。特に、幕末期に経営にあたった正田利右衛門の時期は採掘が非常に順調で、河村瑞賢が支配した時期をも上回る成績を収めたと記録されています。この時期には鉛の産出も盛んで、多い年には年間で19,000貫（現在の約72,000kg）を産出したこともありました。

しかし、1862年（安政6年）、採掘作業中に誤って只見川の河床を掘り抜いてしまい、坑内に大量の水が流れ込む事故が発生しました。この事故により300名以上の死傷者が出てしまい、上田銀山は完全に再起不能な状態に陥り、ついに閉山となりました。

現在の銀山平

上田銀山の閉山後、その跡地は明治時代になると小出島や湯之谷郷の住民によって開墾が進められました。

1953年（昭和28年）からは、電源開発株式会社によって奥只見ダムの建設が開始されます。総工費400億円を投じて1962年（昭和37年）にダムが完成すると、かつての上田銀山や白峯銀山の坑道跡や集落跡地の多くは、新たにできたダム湖（奥只見湖）の底に沈むこととなりました。

現在、奥只見ダム周辺は銀山平と呼ばれ、景勝地として多くの人々が訪れています。奥只見湖はイワナやヤマメ、サクラマスの釣りの名所としても知られ、新緑や紅葉の時期には特に美しい景観を楽しめます。また、この地域には日帰り温泉施設やキャンプ場が整備されており、只見川や北ノ又川沿いはアウトドアレクリエーションの拠点となっています。さらに、群馬県側の尾瀬への新潟県側からの玄関口の一つとしても利用されています。

かつて上田銀山で採掘された銀を運んだとされる道は、「銀の道」として整備され、銀山平石抱から駒ノ湯温泉を結ぶ全長12km、標高差460m、所要時間約4時間10分のハイキングコースとして、多くの人々に親しまれています。

関連遺跡

国道352号の脇にある十二山神社には、過去の事故で犠牲となった人々を供養するための塔が建てられています。また、そこから奥只見ダム方面へ山道を下ると、当時の姿をほぼそのままに残す5箇所の坑道跡を見つけることができます。これらの坑道跡は、一部立ち入って見学することも可能です。

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