上野益三

上野益三（うえの ますぞう）

上野益三（1900年2月26日 - 1989年6月17日）は、日本の著名な生物学者であり、特に昆虫学と陸水学の分野で多大な貢献をしました。京都大学名誉教授の称号を持ち、水生昆虫の分類と生態学的研究、そして日本の生物学史（特に博物学史）の研究で広く知られています。彼は動物分類学会の名誉会員でもありました。昆虫学者の上野俊一は長男です。

略歴

大阪府大阪市で生まれた上野益三は、小学校5年生の時に豊中村（現在の豊中市）へ引っ越しました。旧制大阪府立北野中学校、旧制大阪薬学専門学校を経て、1923年に京都帝国大学理学部動物学科に進学し、川村多実二に師事しました。在学中には鰓脚類の研究を行い、1926年に卒業後、動物学教室の助手となりました。また、在学中にはトワダカワゲラを発見し、後に新種として記載しています。

1929年には、京都帝国大学の大津臨湖実験所に講師として就任し、1933年に理学博士号を取得しました。博士論文の題は「The freshwater branchiopoda of Japan（日本淡水産鰓脚類）」でした。1940年に助教授に昇進し、1943年には川村の後任として同実験所の所長に就任しました。1953年には京都大学教養部（現在の総合人間学部）の教授となりましたが、研究自体は大津臨湖実験所で継続しました。

1963年に京都大学を停年退職し、名誉教授となりました。退職後は甲南女子大学に移り、博物学史や生物学史の研究に専念しました。1989年6月17日、89歳で逝去。亡くなる前日まで原稿を執筆していたと伝えられています。

研究業績

上野益三の研究業績は多岐にわたりますが、特に水生昆虫学と陸水学の分野で顕著な貢献をしました。京都帝国大学在籍時代には、当時ほとんど研究されていなかったカゲロウやカワゲラの研究を進め、日本の水生昆虫学の基礎を築きました。彼の貢献は、単なる水生昆虫の分類学的な記載に留まらず、未解明であった水生生物相の解明にも及びました。

特に『上高地梓川水系の水生動物』（岩波書店）は、日本最初の河川生物群集に関する書籍であり、かつ水生昆虫に関する初の成書として高く評価されています。

また、陸水学の先駆者としても知られており、1931年に日本陸水学会が設立された際には、設立委員の一人として名を連ね、機関誌である「陸水学雑誌」の編集にも携わりました。「陸水学雑誌」に発表された「日光火山彙陸水の生態学的研究」は、湖や沼、渓流、湿原といった水生環境を総合的に取り上げ、その生物群集について記述した日本初の論文であるとされています。研究対象とした生物も昆虫に限らず、枝角類、鰓脚類、カイアシ類、甲殻類など多岐にわたり、特に枝角類においては世界的権威として認められていました。

戦時中には、発電所の水路に発生したトビケラ対策のための研究グループを指揮し、発電所につながる信濃川の調査やシマトビケラの付着実験なども行いました。

さらに、本州鷲家口で採集されたニホンオオカミに関する論考も残しています。

晩年は、若い頃から関心を抱いていた日本の生物学史（博物学史）の研究に力を注ぎました。

著書

『陸水生物学概論』（1935年、養賢堂）
『上高地及び梓川水系の水棲動物』（1935年、岩波書店）
『日本生物学の歴史』（1939年、弘文堂書房・教養文庫）
『日本博物学史』（1948年、星野書店 ; 1973年、平凡社 ; 1989年、講談社〈講談社学術文庫〉）
『下水内の湖沼―長野県下水内郡ならびにその周辺の小湖沼の研究』（1958年、下水内教育会）
『淡水生物学』（1960年、北隆館）
『戸隠飯綱の湖沼―長野県上水内郡戸隠飯綱黒姫湖沼誌』（1965年、上水内郡誌編集会）
『陸水学史』（1977年、培風館）
『博物学史散歩』（1978年、八坂書房）
『薩摩博物学史』（1982年、島津出版会）
『博物学史論集』（1984年、八坂書房）
『忘れられた生物学』（1987年、八坂書房）
『博物学の愉しみ』（1989年、八坂書房）
『年表 日本博物学史』（1989年、八坂書房）
『博物学の時代』（1990年、八坂書房）

共著

『松原湖群の湖沼』（1954年、南佐久教育会） - 田中阿歌麿との共著。
『生物学実験ノート』（1961年、養賢堂） - 山下孝介との共著。

論文

CiNii>上野 益三

もう一度検索