下郎 (映画)

1927年版『下郎』と1955年版『下郎の首』：伊藤大輔監督による時代劇の系譜

伊藤大輔監督は、日本の映画史において重要な存在です。数々の名作を世に送り出した彼の作品の中でも、『下郎』とそのセルフリメイク版『下郎の首』は、時代劇映画の進化を語る上で欠かせない作品と言えるでしょう。

1927年版『下郎』は、サイレント映画でありながら、時代劇の要素を強く含んだ作品として知られています。中村藤吉による原作を伊藤大輔自身が脚色・演出。白黒映画、スタンダードサイズ（1.33:1）で、上映時間は77分（7巻／2,121メートル）にも及びました。この作品の上映用プリントは、残念ながら現存しておらず、東京国立近代美術館フィルムセンターやマツダ映画社にも所蔵されていません。当時の観客にどのような衝撃を与えたのかを知る手がかりは、わずかに残された資料などに頼ることになります。

キャストには、河部五郎、久米譲、沢村春子、金子鉄郎といった、当時の映画界を代表する俳優たちが名を連ねています。河部五郎が主人公格平を演じ、久米譲が主人・助三郎、沢村春子が妾・お国、金子鉄郎が仇役・兵馬を演じたことが記録に残っています。

それから約30年後の1955年、伊藤大輔監督は『下郎』をセルフリメイクしました。それが『下郎の首』です。オリジナル版のサイレント映画から、音声付きの映画への転換は、日本の映画史における大きな変化を表しています。『下郎の首』は、オリジナル版と異なり、役名、脚本ともに一新されています。製作は新東宝、上映時間は97分（11巻／2,670メートル）に及び、白黒映画、スタンダードサイズ（1.37:1）、モノラル録音という仕様となっています。

スタッフも大きく変更されています。撮影は平野好美、照明は佐藤快哉、美術は松山崇、録音は根岸寿夫、編集は宮田味津三、音楽は深井史郎と、それぞれの分野の専門家たちが参加しています。助監督には山田達雄が名を連ねています。製作には津田勝二が携わっています。

キャストには、田崎潤、高田稔、片山明彦、小沢栄、瑳峨三智子、山本豊三など、1950年代を代表する俳優たちが多数出演。田崎潤が主人公・納平を演じています。高田稔が主人・結城新兵衛、片山明彦が息子・新太郎、小沢栄が須藤巌雪、瑳峨三智子が妾・市、山本豊三が息子・静馬といった配役でした。その他多くの俳優が脇を固め、当時の映画界の豪華な顔ぶれを伺い知ることができます。

『下郎の首』は、東京国立近代美術館フィルムセンターに所蔵されており、オリジナル版とは異なる形で、現在でも鑑賞することが可能です。両作品を比較することで、時代の変化や映画表現の変化を改めて感じ取ることが出来るでしょう。伊藤大輔監督の、時代劇に対する情熱と、映画表現の探究心を知る上で、非常に貴重な資料と言えるでしょう。

両作品は、日本の映画史に大きな足跡を残した作品として、今後も研究・鑑賞されるべきでしょう。これらの作品を通して、日本の映画、特に時代劇映画の進化と発展の歴史を垣間見ることができます。オリジナル版『下郎』の現存しない資料を補う形で、『下郎の首』は、伊藤大輔監督の映画人生、そして日本の映画史における重要な位置づけを持つと言えるでしょう。

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