河部五郎

河部五郎：舞台から映画界へ、そして再び舞台へ

河部五郎（1888年7月5日-1976年8月31日）は、日本の俳優として、昭和初期の日活映画で輝かしい功績を残した人物です。本名は、大黒吉次郎。大阪市に生まれ、幼少期を堺市で過ごしました。生家は樽屋を営んでいました。

小学生時代から活発な性格で、チャンバラごっこに熱中する少年でした。やがて物心がつき、強い芝居への情熱を持つようになり、1902年、母親の反対を押し切って4代目市川市蔵に入門します。

その後、秋川圭之助の成美団や山田九州男一座を経て、新派への疑問を感じ、新時代劇の自然座を結成。さらに新声劇、河部五郎一座、国精劇などに参加し、各地を巡業しました。

河部の才能にいち早く目をつけたのは、日活の横田永之助副社長とスター俳優だった尾上松之助でした。二人は、松之助の後継者として河部に白羽の矢を立てたのです。

1925年8月15日、38歳で長年の舞台生活に終止符を打ち、日活大将軍撮影所に入社します。同年10月、築山光吉監督の映画『義刃』で主演デビューを果たしました。デビュー作の成功の後、松之助1000本記念作品である池田富保監督の『荒木又右衛門』では敵役として出演しました。

河部はその後数多くの映画で主演を務めましたが、検閲の問題で公開が遅れるなど、順風満帆なスタートではありませんでした。

1926年には、高橋寿康監督の『修羅八荒』で主演を務め、酒井米子、尾上多見太郎らとともに大成功を収めました。この作品は、日活、マキノ・プロダクション、松竹による競作合戦の中で、特に日活を好調に導く作品となりました。

同時期には、『地雷火組』『砂絵呪縛』『江戸三国志』『維新の京洛』など娯楽作品にも多数出演。一方、伊藤大輔監督の『下郎』では主演を務め、封建的な階級制度を批判する問題作として話題を呼び、キネマ旬報ベストテンにもランクインしました。

この頃、尾上松之助の死後、大河内傳次郎、市川右太衛門、片岡千恵蔵、嵐寛寿郎、長谷川一夫といった剣戟スターたちが台頭し、映画界は激しく華麗な競争の時代に入っていきました。

1929年、河部は突如として日活を退社し、再び舞台へと戻ります。世間では大河内との競争に敗れたという噂も流れました。1931年には日活に復帰しましたが、以前のような活躍はできませんでした。

その後、東活映画社を経て、再び河部五郎一座を結成し舞台で活躍。1937年には日活に再入社しましたが、今度は助演に徹し、片岡や阪東らの主演映画を支えました。1941年に再び日活を退社し、酒井米子と一座を結成し、各地を巡業します。戦時中は大阪府高槻市に疎開しました。

戦後、ファンの支援を受けて京都府右京区嵯峨天竜寺瀬戸川町に移り住み、「かわべ」という割烹旅館を経営していました。1952年、萩原遼監督の『喧嘩笠』に出演したのをきっかけに、再び映画界に戻ります。以降は、東映の時代劇を中心に、悪役や脇役として300本近い作品に出演しました。

新丸太町通りの開通により旅館の敷地が狭くなったことを機に、旅館を閉鎖し、残った敷地に隠居所を建て、リウマチを患っていた妻・みつを看病しながら余生を過ごしました。晩年には、かつての好敵手であった大河内の別荘が近くにあったと言われています。

1976年8月31日、心不全のため88歳で死去しました。その死後も、多くの弔問や弔電が全国から寄せられたと言われています。妻のみつも、翌年12月31日に老衰のため88歳で亡くなりました。

河部五郎の生涯は、舞台と映画界を縦横無尽に駆け巡った、まさに波瀾万丈の人生でした。その名優の軌跡は、日本の映画史に深く刻み込まれています。

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