且鞮侯

且鞮侯（しゃていこう）

且鞮侯は、中国の前漢時代に存在した匈奴の単于（ぜんう）です。彼の生涯は、漢と匈奴という二大勢力の関係の中で展開されました。以下に、彼の生涯と時代背景を詳しく解説します。

生い立ちと即位

且鞮侯は、伊稚斜単于（いちしゃぜんう）の子として生まれました。兄である呴犁湖単于（くりこぜんう）が太初3年（紀元前102年）に即位すると、彼は左大都尉（さだいとつい）という地位に就きます。しかし、その年の冬に兄が病死したため、その後を継いで単于の座に就きました。なお、「且鞮侯」は彼の名であり、単于号ではありません。姓は攣鞮（れんてい）氏です。

漢との関係

即位後、漢との関係は複雑な様相を呈します。太初4年（紀元前101年）、漢が大宛（だいえん）を討伐し、その威勢が周辺諸国を震え上がらせました。この状況を鑑み、且鞮侯はこれまで拘束していた漢の使者を全員帰国させ、敵意がないことを示します。これに対し、漢は中郎将（ちゅうろうしょう）の蘇武（そぶ）を派遣し、多額の贈り物を単于に送りました。しかし、この頃から且鞮侯は次第に傲慢な態度を示すようになります。

漢との戦い

天漢元年（紀元前100年）には、匈奴に捕らえられていた浞野侯（さくやこう）の趙破奴（ちょうはど）が脱走し、漢に帰国するという事件が起こります。翌天漢2年（紀元前99年）には、漢が弐師将軍（じししょうぐん）の李広利（りこうり）に3万の騎兵を率いさせ、酒泉（しゅせん）から出撃させます。李広利は天山（てんざん）で右賢王（うげんおう）を撃ち、1万余りの首級を挙げて帰還しますが、匈奴は大軍で李広利を包囲します。李広利の軍は多くが脱出できず、6～7割が戦死するという大損害を受けました。同年、漢はまた因杅将軍（いんうしょうぐん）の公孫敖（こうそんごう）を西河（せいか）から出撃させ、強弩都尉（きょうどとつい）の路博徳（ろはくとく）と涿邪山（たくやざん）で合流させますが、戦果は上がりませんでした。また、騎都尉（きとつい）の李陵（りりょう）に歩兵5千を率いさせ、居延（きょえん）の北千余里から出撃させますが、李陵は単于と遭遇して戦闘になります。李陵は1万以上の敵を殺傷しますが、兵糧が尽きたため撤退を試みたところを単于に包囲され、降伏しました。且鞮侯は李陵に自分の娘を娶らせたと伝えられています。

天漢4年（紀元前97年）には、漢は再び李広利に6万の騎兵と10万の歩兵を率いさせ朔方（さくほう）から出撃させます。同時に、路博徳に1万、游撃将軍（ゆうげきしょうぐん）の韓説（かんぜつ）に3万を率いさせ五原（ごげん）から、公孫敖に4万を率いさせ雁門（がんもん）から出撃させます。匈奴はこれを聞くと、遠く余吾水（よごすい）の北まで退却し、単于は10万の騎兵を率いて李広利と河南（かなん）で戦います。この戦いで李広利は匈奴に降伏し、韓説は成果を上げられず、公孫敖は左賢王と戦いますが敗北し撤退しました。

死去と後継者

太始元年（紀元前96年）、且鞮侯は死去し、長男である左賢王（さけんおう）が狐鹿姑単于（ころくこぜんう）として跡を継ぎました。

史料

且鞮侯に関する記述は、『史記』匈奴列伝や『漢書』匈奴伝に詳しく記されています。

まとめ

且鞮侯は、漢との間で時には友好的な関係を築きながらも、軍事的には互角以上に戦い抜いた匈奴の単于でした。彼の時代は、漢と匈奴の勢力争いが激化する時代であり、その中で彼は匈奴の独立を維持するために尽力しました。

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