世界大ロマン全集

世界大ロマン全集：冒険と幻想の世界へ誘う65冊

1956年から1959年にかけて、東京創元社から刊行された「世界大ロマン全集」は、SF、怪奇小説、冒険小説、推理小説、ユーモア小説など、多様なジャンルを網羅した叢書です。全65巻におよぶこのシリーズは、箱入りの新書版という独特のフォーマットで、当時の読者から熱狂的な支持を集めました。

本全集の特徴は、その収録作品にあります。世界文学史に名を刻む巨匠たちの作品が数多く収録されており、まさに「世界の大ロマン」の名にふさわしい内容となっています。例えば、アレクサンドル・デュマの『鉄仮面』、『岩窟王』、『黒いチューリップ』、『王妃の首飾り』、H・G・ウェルズの『タイム・マシン』、『透明人間』、『モロー博士の島』、ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』、『月世界旅行』、アーサー・コナン・ドイルの『マラコット深海』、といった誰もが知る名作が収録されています。

さらに、怪奇小説の分野では、ブラム・ストーカーの『魔人ドラキュラ』、H・P・ラヴクラフトの短編小説、M・R・ジェイムズの『ポインター氏の日録』、といった作品も含まれ、当時の読者に衝撃を与えた作品群も網羅されています。冒険小説では、H・R・ハッガードの『洞窟の女王』、『女王の復活』、『モンテズマの娘』、『アランの妻』、『マイワの復讐』、といった作品が冒険心を掻き立てます。

また、本全集には、比較的知られていない作品も多数収録されている点が特筆に値します。例えば、ヴィッキー・バウムの『乙女の湖』、ルイス・ブロムフィールドの『ボンベイの夜』、ジェイムズ・ヒルトンの『朝の旅路』などは、本全集を通じて初めて日本語で読まれた読者も多いのではないでしょうか。これら作品は、それぞれの時代背景や文化を反映した独特の世界観を提示し、読者に多様な魅力を提供しています。

さらに、ユーモア小説や推理小説も収録されており、P・G・ウッドハウスの『専用心配係』、ウィリアム・アイリッシュの『黒いカーテン』、といった作品は、それぞれの作家の個性を際立たせています。また、複数の短編集も収録されており、モーリス・ルヴェルの短編集や、江戸川乱歩が編纂した怪奇小説傑作集なども含まれています。これらの短編集は、様々な作家の作品を一度に楽しめる、貴重なコレクションとなっています。


翻訳者陣も豪華な顔ぶれが揃っています。大久保康雄、宇野利泰、平井呈一、江戸川乱歩といった、当時第一線で活躍した翻訳家たちが、それぞれの作品に独自の解釈を加え、高い翻訳レベルで読者へ届けています。

「世界大ロマン全集」は、単なる小説の集成ではなく、一つの文化遺産です。その全65巻に込められた、多様なジャンル、豪華な作家陣、そして優れた翻訳の三位一体は、現代においても多くの読者を魅了する要素であり続けています。これらの作品は、それぞれの時代背景、文化、そして人間の心情を深く掘り下げて描かれており、現代社会においても普遍的なテーマを提起しています。


現在では入手困難な作品も多く、古書市場での価格は高騰している場合もあります。しかし、その価値は価格では計り知れないほど高く、本全集は、文学史における重要な位置を占める、まさに「世界の大ロマン」を凝縮したコレクションと言えるでしょう。各巻のカバーデザインや装丁も美しく、コレクターアイテムとしても高い価値を誇っています。

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