中原音韻

『中原音韻』は、中国の元代に周徳清によって1324年に完成した韻書です。従来の韻書が主に漢詩の押韻（詩韻）を対象としていたのに対し、『中原音韻』は当時の民間歌謡である元曲の押韻（曲韻）のために編纂されました。この点が、この韻書の大きな特徴と言えるでしょう。

体裁の特徴

従来の『切韻』系の韻書では、まず韻を四声で分け、各声調ごとに同韻字を並べるという形式が一般的でした。しかし、『中原音韻』では、まず19の韻部に分類し、その中で平声（陰・陽に分かれる）、上声、去声に分け、さらに韻と声母が同じ字ごとにまとめて配列しています。これは、元曲においては異なる声調の字で押韻する必要があるため、このような形式が採用されたと考えられます。

また、入声に由来する字については、「入声作平声」「入声作上声」「入声作去声」などと記し、それぞれ平声、上声、去声の後ろに付しています。ただし、「去声作平声」のような例外も見られます。

通常の韻書には反切や字義の説明が付されることが多いですが、『中原音韻』ではこれらの情報はほとんど記載されておらず、字が並んでいるのみです。ただし、ごくまれに簡単な注釈が付けられていることもあります（例：支思韻の「瑟（音史）」）。

発音の特徴

『中原音韻』は、当時の知識人が伝統的な『切韻』や『広韻』といった古い発音を使う尚古主義を批判し、実際の当時の発音を記録した点が大きな特徴です。四声の分類も、平声・上声・去声・入声ではなく、陰平・陽平・上声・去声の四つに分類し、入声は平声、上声、去声に分けて配列しました。

このことから、当時の北方では入声が消滅していたと一般的に考えられています。しかし、周徳清自身は序文で入声の区別があったと述べているため、議論を呼んでいます。この点については、周徳清の出身地では入声が残っていたか、あるいは-k,-p,-tの区別がない声門破裂音[ʔ]に変化していたなどの可能性が考えられます。

入声の変化に加え、全濁音の清音化、平声の陰陽分化、三十六字母における非・敷・奉三母の統一、影母・喩母三等・喩母四等の統一、支思韻と斉微韻の分立なども、『中原音韻』の発音上の特徴として指摘されています。

19韻部

『中原音韻』は以下の19の韻部に分類されています。

1. 東鍾韻
2. 江陽韻
3. 支思韻
4. 斉微韻
5. 魚模韻
6. 皆来韻
7. 真文韻
8. 寒山韻
9. 桓歓韻
10. 先天韻
11. 蕭豪韻
12. 歌戈韻
13. 家麻韻
14. 車遮韻
15. 庚青韻
16. 尤侯韻
17. 侵尋韻
18. 監咸韻
19. 廉繊韻

関連文献

服部四郎・藤堂明保『中原音韻の研究 校本編』江南書院、1958年。

外部リンク

韻典網
* 中原音韻の検索 （中国語）

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