声調

声調：音の高低が織りなす言語の多様性

この記事では、言語学における重要な要素である「声調」について詳細に解説します。声調とは、言葉の意味を区別するために用いられる音の高低のパターンです。声調を用いる言語は「声調言語」または「トーン言語」と呼ばれ、世界中に広く分布しています。

アクセントとの違いと連続体

声調とアクセントは、どちらも音の高低を用いますが、明確な違いがあります。アクセントは、特定の音節に強調を置くことで意味を区別する一方、声調は音の高低パターン全体で意味を区別します。しかし、この区別は絶対的なものではなく、モイラ・イップの説のように、両者は声調の数と密度が異なる連続体として捉えることも可能です。つまり、アクセント言語も広義の声調言語に含まれると考えることができます。日本語やセルビア・クロアチア語などがその例です。

声調の種類：多様なパターン

声調にはいくつかの種類があり、主なものを以下に示します。

音節声調

音節声調は、各音節の音の高低によって意味が区別されるものです。さらに、次の2種類に分類されます。

段位声調（Level Tone）： 各音節が持つ相対的な音の高低の違いの組み合わせで意味を区別します。イボ語、エウェ語、ハウサ語、ヨルバ語などがその例です。
曲線声調（Contour Tone）： 1音節の中で音の高低が変化することで意味を区別します。中国語、タイ語、ベトナム語などがその代表的な言語です。多くの場合、段位声調と曲線声調の両方を用います。

単語声調

単語声調は、単語全体の音の高低パターンで意味が区別されます。単語内のどの音節が高いか低いかは決まっていません。スウェーデン語、ノルウェー語などがこのタイプに属します。日本語も、西日本を中心に単語声調が見られます。

声調の表記法：様々な方法

声調を表記する方法も様々です。

国際音声記号 (IPA)

IPAでは、ダイアクリティカルマークと声調記号の2つの方法で声調を表します。ダイアクリティカルマークはアフリカの声調言語の表記に多く用いられ、声調記号は中国語やタイ語など、曲線声調を持つ言語に適しています。Unicodeでは、5種類の声調文字が定義されていますが、複数の記号を組み合わせることで、より複雑なパターンを表すことができます。

五度法

五度法は、1から5の数字でピッチの高さを表す方法です。1が一番低く、5が一番高い音程を表し、数字の組み合わせで声調のパターンを表記します。中国語方言学の文献で多く用いられています。

声調変化：連続変調とその他

声調のパターンは常に一定とは限りません。文脈や他の音節との関係によって変化する現象を「連続変調 (tone sandhi)」といいます。日本語の単語連結や助詞の付加による声調変化、中国語における熟語や連語での変化などがその例です。また、中国語の「軽声」のように、声調が消失する現象も存在します。広東語では、口語化や意味の変化に伴い声調が変化する例も見られます。

声調の発生：tonogenesis

声調は、元々は存在しなかった言語に、音韻変化によって後から生じることもあります。この現象を「声調発生 (tonogenesis)」といいます。アンドレ＝ジョルジュ・オドリクールは、ベトナム語の研究を通して、無声音/有声音の区別が消失した結果、声調が発生した可能性を指摘しました。この研究は、東・東南アジアの言語における声調の歴史的変遷を理解する上で重要な役割を果たしています。

声調の地理的分布

声調言語は、東アジア、東南アジア、アフリカ、南アメリカ、中央アメリカ、北アメリカなど、世界各地に分布しています。東南アジアでは、4～6つの声調を区別する言語が多く、アフリカでは2つの声調の対立を持つ言語が一般的ですが、より複雑な声調システムを持つ言語も存在します。

声調言語の例

中国語

中国語は典型的な声調言語です。普通話には4つの声調（四声）があり、第一声のみ段位声調で、残りは曲線声調です。声調の組み合わせによって意味が変化し、また、連続する声調の変化や「軽声」と呼ばれる特殊な発音も存在します。歴史的には、中古中国語の四声（平声、上声、去声、入声）から変化したとされています。

マサイ語

ケニアやタンザニアで話されるマサイ語では、名詞や形容詞の主格と対格の区別を声調によって行っています。これは、声調が文法的な役割を果たす例として注目に値します。

声調言語と歌曲

声調言語の歌曲では、声調がメロディーに影響を与えます。中国語（普通話）の歌では声調はあまり重視されませんが、広東語やベトナム語など、調類の多い言語では、声調の高低に合わせて作曲されたり、歌詞選択に影響を与えます。外国曲をカバーする場合、声調に注意する必要があるため、オリジナル曲の音符の高さを変えることもあります。

結論

声調は、言語を理解する上で重要な要素であり、その種類、表記法、変化、発生など、多様な側面を持つ複雑な現象です。世界各地の言語における声調の多様性を理解することで、言語の進化や多様性についてより深く理解することができます。

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