中国における携帯電話

中国における携帯電話事情

中国の携帯電話市場は、世界最大規模を誇り、その発展は目覚ましいものがあります。2012年5月時点で契約数は10億件を超え、人口の大部分が携帯電話を利用している状況です。本稿では、中国大陸部における携帯電話事情を中心に、その歴史、サービス会社、端末市場、料金体系、利用方法、そして日中間の利用状況の違いについて詳しく解説します。

歴史

中国における携帯電話サービスは、1995年に郵電部がGSM方式で開始しました。1996年には全国的なネットワークがほぼ完成し、2000年には中国郵電電信総局から固定電話会社と携帯電話会社2社が独立しました。2002年には固定電話会社が南北2社に分割され、北京オリンピックが開催された2008年までは、以下の会社が携帯電話サービスを提供していました。

旧中国移動通信（China Mobile）：GSMによるサービス
旧中国聯合通信（China Unicom）：GSMおよびCDMAによるサービス
旧中国電信（China Telecom）および中国網絡通信（China Netcom）：PHSによるサービス

これらの会社は、もともと長江以南、長江以北の地域をそれぞれ担当する固定電話会社であり、PHSはこれらの会社が携帯電話市場に参入するための手段として利用されました。中国では固定電話のインフラが十分に整備されていない地域も多く、携帯電話の普及が急速に進みました。2007年には、年間販売台数、年間生産台数ともに世界一となり、2012年には契約数が10億件を超えています。

現在の携帯電話サービス会社

2008年4月、中国移動通信は主要8都市で独自のTD-SCDMA方式による第三世代携帯電話（3G）の公開テストを開始しました。同年12月には、電気通信会社の再編が行われ、現在の体制となりました。

新中国移動通信（China Mobile）
旧中国移動通信のGSMサービスを継承し、中国鉄道通信も合併。3GはTD-SCDMAを採用し、3.9GはTD-LTEを採用。
新中国聯合通信（China Unicom）
中国聯合通信のGSMサービスを継承し、旧中国網絡通信の業務（中国北部の固定電話サービスと小霊通サービス）を合併。3GはW-CDMAを利用し、3.9GはLTEを採用予定（TD-LTEのライセンスを取得済み）。
新中国電信（China Telecom）
中国南部の固定電話サービスと小霊通を引き継ぎ、旧中国聯合通信のCDMAサービスも引き受け。3GはCDMA2000 1xを利用し、3.5GはEV-DOを利用。3.9GはLTEを利用予定（TD-LTEのライセンスを取得済み）。

これらの3社は2009年に3Gの本免許を取得し、同年3Gサービスを開始しました。中国移動のTD-LTEは2013年12月にサービス開始され、他の2社も2014年以降にLTEサービスの開始を予定しています。

中国の携帯電話産業

広い国土を持つ中国で携帯電話サービスを展開するには、多くの機関や企業が関与しています。無線通信は、国務院・工業和信息化部の管理下にあり、3GのTD-SCDMA技術は、大唐電信科技で開発が続けられています。また、電話網の設置には、国内外の多くの企業が関わっています。

中国の携帯電話産業は国内だけでなく、アジアやアフリカ諸国を中心に海外での電話網構築も手掛けており、国際的な経験も豊富です。

端末

中国の携帯電話市場は、ハイエンドからローエンドまで、国内外のメーカーによる多様な端末が提供されています。市場シェアはVivo、Apple、OPPO、Xiaomi、Honerなどが上位を占めています（2020年時点）。

新機能や新スタイルの端末は発売当初は高価ですが、時間の経過とともに価格が下がり、1～2年後には半額以下になることもあります。また、SIMカードを2枚挿入できる端末も普及しています。これは、PHSサービスの価格低下や、CDMAが中国電信に移管されたことによる電波状況の悪化などが理由として挙げられます。

また、「山寨手機」と呼ばれる模倣品も多く流通しており、非公式に販売されています。これらの模倣品は、価格、機能、品質が様々で、人気の高いブランド製品も低価格で手に入れることができます。

端末選び

中国では、通信回線と端末のビジネスがほぼ完全に分離しており、ユーザーは端末とキャリアを自由に選ぶことができます。高性能端末は高価で、一般的なサラリーマンの月収を上回ることもあります。キャリアによっては、数年契約をすることで端末価格を割り引くサービスも提供されています。

端末は、街中の露店から、キャリア直営の大規模な販売店まで、様々な場所で購入できます。保証を考えると、有名電気店やキャリアの営業所で購入することが望ましいでしょう。また、電子城や手機広場と呼ばれる携帯電話マーケットも利用できます。

海外から自分の携帯を持ち込み、中国で入手したSIMカードと組み合わせて使用することも可能です。また、海外で販売されている携帯端末を中国語で使えるようにして販売するルート（「水貨」と呼ばれます）も存在しますが、修理に問題がある場合があります。

各言語の入力

中国語の入力には、ローマ字を使用するピンイン入力が一般的です。ほとんどの機種で、香港や台湾で使用されている繁体字も表示できます。機種によっては、五筆輸入法や手書き入力、T9入力なども利用できます。

英語モードでは、予測入力や自動入力が搭載されており、途中まで入力すると候補が表示されます。日本語入力は、中国で販売されている携帯電話では一般的ではありません。多言語対応のスマートフォンを使用することで、日本語入力を利用できます。

携帯電話サービスの内容

携帯電話サービスの内容は各社で異なりますが、大連での中国移動通信を例に、サービス内容を解説します。

相手からの着信は無料：中国では伝統的に、発信者と着信者が費用を折半する習慣がありましたが、最近では着信無料のプランも増えています。
彩鈴（ツァイリン）：着信音を好きな音楽にするサービスで、月額5元です。
短信（ドゥアンシン）：SMSのことで、1通1角です。
彩信（ツァイシン）：写真付きメッセージで、1通5角です。

中国移動通信のサービス

中国移動通信は、以前は「本地通」、「神州行」、「全球通」などのサービスを提供していましたが、現在は以下のサービスが主流です。

神州行（EasyOwn）：主に国内通話向けのサービスで、月額料金と通話料が異なる複数のプランがあります。
全球通（GoTone）：ビジネスユーザー向けのサービスで、月額料金が高い分、通話時間やデータ通信量が多いプランがあります。
動感地帯（M-Zone）：若者向けのサービスで、月額料金が比較的安く、SMSやデータ通信の利用が多いプランがあります。

中国聯合通信のサービス

中国聯合通信は、2GのGSM方式と3GのW-CDMA方式でサービスを提供しています。

世界風、新勢力、如意通：地域によって異なる料金プランがあります。

3G回線では、2G回線も利用可能です。また、4Gサービスも提供しており、自由に組み合わせられる料金プランがあります。データ通信端末も販売しており、高速通信が可能です。

中国電信のサービス

中国電信は、2GのCDMA方式とPHS（小霊通）のサービスを提供しています。PHSは固定電話の番号体系を使用しており、同一市内でのみ利用可能です。また、3GサービスもCDMA2000 1x方式で提供しています。

SIMカードの入手

中国では、SIMカードの入手が携帯電話サービスの契約となります。端末購入後、キャリアのデスクでサービスを選び、身分証やパスポートを提示してSIMカードを入手します。

SIMカードは街中のスタンドでも販売されていますが、名義が他人になっていることが多いため、継続利用する場合はキャリアの窓口で購入することが推奨されます。

支払い方法

プリペイド式（先払い方式）：外国人でもパスポートがあれば簡単に契約できます。
契約している携帯電話会社の営業所での現金、銀聯カード、クレジットカード払い。
契約している携帯電話会社のウェブサイトからの銀行振り込みやクレジットカード払い。
プリペイドカード（充值卡）の購入。
インターネット上の店舗での入金用パスワードの購入。
携帯端末の決済システム（手机钱包）からの支払い。

ポストペイ式（後払い方式）もありますが、外国人の契約には制限があります。

電話サービスの問い合わせと利用明細

中国移動通信の場合、問い合わせ番号は10086です。中国語、英語、日本語で対応可能です。プリペイド料金の状況は、SMSで問い合わせることができます。

毎月10日ごろには、前月の利用料金がSMSで通知されます。また、詳細な明細は、インターネット上やキャリアの事務所で確認できます。

中国における携帯電話の特徴

GSM、TD-SCDMA、W-CDMA、PHSなど、複数の通信方式が存在する。
プリペイド契約が主流。
着信時にも費用を負担する習慣が残っている。
公共の場所でも通話をする。
携帯電話機と携帯電話サービス会社が独立している。
政府が料金を統制しており、低コストで携帯電話を利用できる。
農村部では、固定電話インフラの代替として普及している。
一般の携帯電話番号は11桁で、先頭が1。PHSは固定電話と同様の番号体系。
SMSがすべての携帯会社間で相互に利用可能。
メロディコールのようなサービス（彩鈴）がある。

携帯電話における問題点

携帯電話機の窃盗品販売が横行している。
「山寨手機」と呼ばれる模倣品が大量に出回っている。
ブランド品の偽物の電池による事故が発生している。

日中の間で

日中間の人事交流が活発になるにつれ、両国間の携帯電話利用の違いが課題となっています。日本と中国はそれぞれ異なる携帯電話の商習慣を持っているため、3G時代になっても、携帯電話を自由に利用できる環境ではありません。

日本を出て、中国で携帯電話を使う

日本からの渡航者は、中国ではプリペイド携帯が一般的と捉えがちですが、長期滞在者向けには中国の携帯サービスを利用することが一般的です。SMSは中国語またはローマ字であるため、日本語入力ソフトを追加したり、SIMロックを解除した日本製の携帯電話を使用したり、多言語対応のスマートフォンを持ち込む人もいます。

日本企業の取り組み

NTTドコモは、上海に現地法人を設立し、中国聯合通信の回線を利用した日本語表記対応の携帯電話の取次ぎ事業を行っています。これにより、日本語でのEメールやSMSの送受信が可能になりました。また、モバイルWi-Fiルータのサービスも提供しています。さらに、a2network社もMVNOサービスを展開しています。

中国から出て、日本で携帯電話を使う

中国の携帯電話環境に慣れた人にとっては、日本の携帯市場は携帯端末と携帯サービスの分離が進んでいない未発達の市場に見え、SIMカードが自由に購入できないことに不便を感じる人が多いようです。中国の携帯電話を日本で使用する場合は、国際ローミングを利用するか、日本の携帯電話とサービス（SIMカード）を入手して、自分の携帯電話端末にSIMカードを入れ替える必要があります。

用語集

彩鈴（ツァイリン）：着信音を好きな音楽にするサービス
短信（ドゥアンシン）：SMS
彩信（ツァイシン）：写真付きメッセージ
小霊通（シャオリントン）：PHS
山寨手機（シャンザイショウジ）：模倣品の携帯電話
水貨（シュイフォ）：海外で販売されている携帯端末を中国語で使えるようにした製品

中国における携帯電話