中島待乳

中島待乳（なかじま まつち/まっち）

中島待乳は、嘉永年間に生まれ、1938年（昭和13年）に没した明治時代の写真師であり、幻灯機製造者です。本名は精一。彼は、鶴淵初蔵と並び、日本における幻灯普及の功労者としてその名を知られています。

生涯

中島待乳は、嘉永元年（1848年）、嘉永3年（1850年）4月15日、または嘉永6年（1853年）4月14日に下総国銚子に生まれました。幼名は助次郎。文久年間にオランダ船が漂着した際、乗組員の懐中時計に貼られた写真を絵画と誤認したことが、画家を志すきっかけになったと伝えられています。元治元年（1864年）、父によって丁稚奉公のために江戸に連れ出されますが、それを拒んで帰郷。慶応3年（1867年）には、南画家中林湘雲が銚子に来訪した際に入門し、彼に従って江戸に出ました。

その後、写真の存在を知り写真家を志すようになります。日本橋区本町の穂積屋清水卯三郎から漢訳書を入手し、福地源一郎にレンズ製造法を、京橋区竹川町の玉屋松五郎にレンズ研磨法を学びました。明治元年（1868年）には吉原で試験撮影を開始しますが、10月の火事で器具が全焼。この頃、写真師の横山松三郎に師事し、修正術や採光法を習得しました。

陸軍省や山城屋に勤務した後、1872年（明治5年）には玉屋に住み込み、レンズや写真機の自作に成功。1873年（明治6年）に松五郎が亡くなると、1874年（明治7年）に浅草区材木町に写真館「待乳園」を開業しました。館号は近くの待乳山に因んでおり、師である横山松三郎から与えられたとされています。

1877年（明治10年）頃からは、写真雑誌『脱影夜話』の記事を参考に幻灯機の製造を試み、手品師の帰天斎正一などから注文を受けました。1880年（明治13年）には、教育博物館長の手島精一が師範学校などの教材として幻灯の導入を推進し、鶴淵初蔵と共に製造を請け負いました。その後も幻灯機の改良を重ね、1886年（明治19年）6月にはライムライトを用いた「水酸瓦斯機械」を発明し、改良幻灯会で披露。画家の妻、松尾園の協力を得て、種板の制作にも力を入れました。1894年（明治27年）には、日本橋区呉服町一丁目1番地に移転しています。

明治30年代には幻灯製造が一般に普及し、写真師による製造事業は終焉を迎えました。晩年は牛込区弁天町に住み、1938年（昭和13年）1月19日に死去。多磨霊園に葬られました。戒名は正念院玅心一倒精居士。

役職

1892年（明治25年）：写真協和会記者
1894年（明治27年）：日本幻灯会幹事（技術担当）
1894年（明治27年）：大日本写真品評会評議員
1897年（明治30年）：大日本写真協会技芸長
1907年（明治40年）：大日本写真会評議員
1907年（明治40年）：第6回東京府勧業博覧会嘱託審査官（写真印画・同器械材料）
1910年（明治43年）：東京写真師組合顧問

受賞歴

1880年（明治13年）：第1回内国勧業博覧会花紋賞（人物写真）
1881年（明治14年）：第2回内国勧業博覧会有功三等賞（写真）
1890年（明治23年）：第3回内国勧業博覧会有功三等賞（瓦斯幻灯）

門人

* (情報なし)

親族

妻である秋尾園は、陸軍馬術教官の秋尾利義の三女であり、工部美術学校の生徒でした。1880年（明治13年）頃に結婚。園の末弟である秋尾新六は、待乳に写真術を学び、大正期には本門佛立宗に傾倒し、在家日蓮宗浄風会を設立して親族や弟子などを入会させました。

園との間には子がなかったため、新六の次男である勲を養子としました。勲は戦時中、陸軍工兵大尉として航空写真に従事し、シベリア抑留、自衛隊勤務を経て事業を始めましたが失敗。1956年（昭和31年）には家蔵品を散逸させています。

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