中村遊廓

中村遊廓の歴史

中村遊廓は、大正時代に愛知県名古屋市中村区に存在した公許の遊廓です。この地には、かつて多くの公娼が集まっていました。現在では、名古屋市内唯一のソープランド集中地区として知られています。

中村遊廓成立以前

江戸時代、名古屋には複数の遊廓が存在しましたが、いずれも短期間で廃止されました。その中で、私娼である「百花（もか）」が活躍していました。幕末には、玉屋町の宿屋が北野新地での役者や芸人の寄宿を許可され、徐々に繁盛しました。明治時代に入り、1874年に日出町近傍に公娼が誕生し、その後、大須観音の堂裏に移転して「旭廓」と称されるようになりました。

旭廓の発展と移転

旭廓は1905年頃に全盛期を迎え、173軒の娼家と1618人の娼妓を抱えていました。しかし、都市の発展とともに手狭になり、風紀上の問題も指摘されるようになりました。1892年頃から移転問題が浮上し、当初は南区稲永新田への移転が計画されましたが、疑獄事件が発生し頓挫しました。その後、現在の「愛知郡中村」への移転が決定しました。

中村遊廓の誕生と繁栄

1920年、名古屋土地株式会社と旭廓土地株式会社の間で土地売買契約が締結され、1923年4月1日に中村遊廓が開業しました。この時から「中村遊廓」または「中村旭廓」と呼ばれるようになりました。遊廓は、日吉・寿町・大門・羽衣・賑の五つの町からなり、「五町街」または「五丁町」と呼ばれました。

移転後、遊客数や遊興金額は増加し、1925年には75万人以上の遊客が訪れました。1937年頃には、138軒または147軒の娼家と約2000人の娼妓を抱え、日本最大級の遊廓となりました。昭和初期には、京都の嶋原から専門家を招いて花魁道中を開催するなど、その繁栄は頂点を極めました。

遊廓の構造と運営

中村遊廓は、東京の吉原を模した造りで、外周を堀で囲み、外部からの視線を遮るように工夫されていました。娼家は木造二階建てで、中央に坪庭がありました。一階には帳場や張見世があり、客室や生活空間が設けられていました。二階には客室があり、各部屋の入り口は趣向が凝らされていました。坪庭は、廓内のほとんどの建物に設けられており、その多くは口の字やコの字状に配置されていました。

娼妓の生活

中村遊廓の娼妓は、19歳から38歳までの女性が中心でした。特に22歳が最も多く、年齢を重ねるにつれて数が減少していました。外出は制限され、必要な物品は娼家経営者を通じて購入する必要がありました。しかし、白米での食事が保証されていたため、貧しい家庭の娘たちが集まる要因の一つとなっていました。

戦時下の中村遊廓

日中戦争が勃発すると、遊廓への客足は減少し、1943年には規模が大幅に縮小されました。休業中の娼家は軍需工場の寄宿舎や寮に転用され、遊廓の情趣は失われました。

戦後の名楽園時代

終戦後、中村遊廓は戦災で多くの建物が焼失しましたが、他の地域に比べると被害は少なかったです。進駐軍の兵士が訪れるようになりましたが、すぐに禁止令が出され、客足は激減しました。1946年、公娼制度が廃止され、中村遊廓は「名楽園」と名前を変え、特殊飲食店として営業を続けました。その後、特殊カフェーに転換し、「芸妓」を「給仕婦」と改称しました。この時期、全国的に同様の「〇〇園」という名称の特殊カフェーが流行しました。

売春防止法施行と現在

1958年の売春防止法施行に伴い、名楽園は自主的に転廃業しました。旅館やトルコ風呂、飲食店などに転業しましたが、旅館業は過剰供給となり、早くも再転業を余儀なくされる店もありました。現在では、ソープランドが10軒ほど残っています。旧中村遊廓の建物は減少し、跡地にはマンションや病院などが建ち、住宅街の中に埋没しつつあります。しかし、地元では「新大門商店街」を立ち上げ、活性化の取り組みが続けられています。

周辺関連施設

遊里ヶ池

中村遊廓建設の際に土砂を掘ったことでできた池です。夏はボートや釣りで賑わい、花火大会も開催されました。池の中心には弁天寺が建てられましたが、1935年頃に埋め立てられ、跡地に名古屋第一赤十字病院が建設されました。

愛知県立中村病院

元々は娼妓の検黴を行うための施設として設立されました。その後、中村遊廓の近くに移転し、県立中村病院として一般の患者も受け入れるようになりました。現在は取り壊され、一部は名古屋第一赤十字病院の施設として利用されています。

素盞男神社

中村遊廓の近くに位置する神社です。毎年11月には酉の市が開催され、多くの人々が商売繁盛を祈願に訪れます。かつての遊廓内の楼名が刻まれた奉納物も多く残っています。

中村遊廓に関連する歌謡

廓小唄
名楽園音頭
恋の五丁町

沿革

1923年：大須旭廓が中村に移転し、中村遊廓となる。
1925年：愛知県立中村病院開院。
1928年：花魁道中開催。
1933年：花魁道中開催。
1937年頃：最盛期を迎える。
1937年：遊里ヶ池跡地に中村日赤開院。
1945年：名楽園に改称。
1958年：売春防止法施行に先駆け、自主転廃業。
1969年：ほていや中村ショッピングセンター開店。
1993年：廓内の4建築物が名古屋市都市景観重要建築物に指定。
2005年：ジュディ・オングが廓内の料亭を題材にした版画で日展特選を受賞。

交通アクセス

名古屋市営地下鉄東山線 中村日赤駅より東へ徒歩約5分。
名古屋市営バス・名鉄バス「大門通」バス停より北へ徒歩約7分。
* JR各線・名古屋臨海高速鉄道西名古屋港線（あおなみ線） 名古屋駅より西へ徒歩約20分。

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