中距離多目的誘導弾

中距離多目的誘導弾（MPM-MR）について

中距離多目的誘導弾（MPM-MR）は、陸上自衛隊が運用する対舟艇・対戦車ミサイルシステムです。防衛省技術研究本部と川崎重工業によって開発されました。部隊内では「中多（ちゅうた）」という略称で呼ばれています。

開発の背景

このミサイルは、当初、87式対戦車誘導弾（中MAT）の後継として開発が始まりました。しかし、96式多目的誘導弾システム（MPMS）が高価で、複雑な構成であったため、中MATと重MAT両方の後継として開発されることになりました。

システムの特徴

中距離多目的誘導弾は、第3世代の誘導方式を採用しています。赤外線画像（IIR）とセミアクティブ・レーザー・ホーミング（SALH）の2種類の光波ホーミングを併用することで、高い命中精度を実現しています。照準は、赤外線画像（IIR）またはミリ波レーダーを用いて行われます。1秒間隔での連続射撃が可能で、同時多目標への対処能力と撃ち放し能力を有しています。また、LOAL（発射後ロックオン）も可能とされています。

このミサイルは、市街戦や対ゲリラコマンド任務を考慮して開発されており、舟艇、装甲・非装甲車両、人員、構造物など、多様な目標に対して対処できます。従来の対戦車ミサイルとは異なり、発射機と追尾装置、自己評価装置を高機動車に一体化して搭載することで、システムとしての自己完結性を高めています。発射機には、車載型（6連装）と地上布置型（単装）があり、地上布置照準機を使えば、発射機から離れた場所からの照準も可能です。

ミサイルの構造は、前翼がなく後部に4枚の矩形翼を持つ特徴的な形状をしています。サイドスラスター方式の推進装置や、01式軽対戦車誘導弾（軽MAT）の開発で得られた技術が活用されています。

調達と配備

2009年度予算で初めて調達が開始され、普通科部隊の対戦車小隊の火力を強化する目的で配備が進められました。この配備に伴い、各普通科連隊では対戦車小隊が連隊直轄の部隊として再編されました。

運用

対戦車小隊は、射撃指揮用の高機動車1両、射撃分隊4組、前進観測班4組で構成されます。射撃指揮車には、小隊長、小隊陸曹、操縦手兼通信手が乗車し、射撃分隊は分隊長、操縦手、誘導手で構成されます。

配備部隊

中距離多目的誘導弾は、陸上自衛隊の多くの部隊に配備されています。主な配備部隊としては、以下のものがあります。

富士学校
富士教導団
武器学校
陸上総隊直轄部隊
第1空挺団
水陸機動団
北部方面隊
東北方面隊
東部方面隊
中部方面隊
西部方面隊

これらの部隊の普通科連隊や、警備隊の本部管理中隊対戦車小隊などに配備されています。また、試作品は陸上自衛隊広報センターや霞ヶ浦駐屯地で展示されています。

関連情報

このミサイルは、陸上自衛隊の装備体系において重要な位置を占めており、対戦車戦力の近代化に大きく貢献しています。中距離多目的誘導弾の開発と配備は、日本の防衛力強化に不可欠な要素と言えるでしょう。

参考資料

『2010陸海空自衛隊最新装備 JSDFニューウェポン・カタログ』
* 『丸』新春2月特別号別冊付録 潮書房 2010年

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