丹波雅忠

丹波雅忠：平安時代の名医とその生涯

丹波雅忠は、平安時代中期から後期にかけて活躍した、名高い貴族であり医師でした。名医として知られた典薬頭・丹波忠明を父に持ち、その才能は家系に受け継がれたと言えるでしょう。雅忠は医術の道を究め、数々の要職を歴任し、その名声は日本国内にとどまらず、海外へも及ぶほどでした。

華麗なる経歴：医術と行政の両面で活躍

雅忠の経歴は、医術の研鑽から始まります。医得業生として修業を積んだ後、長元7年（1034年）には医道課試に見事合格。翌年には権医博士に任ぜられ、その優れた医術は朝廷においても高く評価されました。

医師としての職務に加え、雅忠は地方官としての経験も積んでいます。後朱雀朝から後冷泉朝前期にかけて医博士を務めながら、近江掾、備後介、丹波介といった地方官職を歴任。これは、彼の高い能力と朝廷からの信頼の厚さを示しています。

後冷泉天皇の病を薬で治療した功績により、従四位下と侍医に叙任されるなど、その地位は着実に上昇していきました。天喜5年（1057年）には典薬頭に任ぜられ、右衛門佐を兼任。さらに、関白・藤原頼通の病を治癒させたことで、その手腕は広く知れ渡り、康平2年（1059年）には施薬院使に任ぜられました。

雅忠の官位は、承保4年（1077年）までに正四位下・主税頭にまで上り詰めました。これは、彼が医師としてだけでなく、行政官としても高い能力を発揮していたことの証左と言えるでしょう。

国際的な名声：日本扁鵲の異名

雅忠の医術の評判は、日本国外にも広がっていました。「日本扁鵲」と称されるほど、その名声は高く、海外からも注目を集めました。承暦4年（1080年）、高麗王・文宗が悪瘡を患った際、高麗から雅忠を招聘しようという動きがありました。しかし、高麗側の儀礼に不備があったため、朝廷は派遣を断っています。この「医師招請事件」は、雅忠の国際的な名声を裏付けるエピソードと言えるでしょう。

医術の継承：著作と後継者

雅忠は、単に優れた医師であっただけでなく、医術の継承にも貢献しました。曾祖父である丹波康頼の『医心方』を抄録した『医略抄』や『医心方拾遺』といった著作を残し、後世の医術の発展に貢献しています。

また、丹波重康という実子に加え、養子として丹波忠康を迎え入れ、医術の伝統は子孫へと受け継がれていきました。

晩年と死：医官としての生涯を終える

丹波雅忠は、寛治2年（1088年）2月18日に68歳で亡くなりました。没時の官位は主税頭正四位下兼侍医丹波権守でした。その生涯は、医術の研鑽、行政への貢献、そして国際的な名声獲得と、まさに波瀾万丈と言えるでしょう。丹波雅忠は、平安時代の医療史に大きな足跡を残した、偉大な医師であったと言えるでしょう。

参考文献

『大日本史料』
『十訓抄』
『百錬抄』
『朝野群載』
宝賀寿男『古代氏族系譜集成』
宮崎康充編『国司補任 第四 第五』

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