久里浜

久里浜（くりはま）は、神奈川県横須賀市の東部に広がる地域です。黒船来航の地として歴史に名を刻む浦賀とは岬を隔てて隣り合い、特に1853年にペリー艦隊の一行が日本との交渉のため初めて上陸した場所として広く知られています。

この項目では、横須賀市の行政区分である久里浜行政センターの管轄区域（岩戸、内川、内川新田、久比里、久村、久里浜、久里浜台、佐原、神明町、長瀬、ハイランド、舟倉、若宮台の13地区）にほぼ相当する範囲の、地理や歴史、現在の様子について記述します。

久里浜地域は、横須賀市の南東部に位置し、平作川沿いに広がる平地と、その周囲を取り囲む丘陵地帯から成り立っています。東側には、平作川が流れ込む久里浜港があり、浦賀水道に面しています。

平地部は交通の便が比較的良好なため、古くから人々の居住地や商業活動の中心として発展してきました。特に京浜急行久里浜駅の周辺は活気があり、アーケード付きの商店街や大型ショッピングモールが並び、地域の商業拠点となっています。一方、丘陵地帯には多くの住宅地が造成されていますが、一部は「くりはま花の国」のような広大な公園として整備され、豊かな自然が保たれています。沿岸部は、港湾や工業地域として開発が進み、東南部には地域経済を支えるJERA横須賀火力発電所が立地しています。久里浜港の中央部には人工砂浜が設けられ、市民や観光客が憩う公園としても利用されています。

久里浜の歴史は古く、港の北西に位置する丘陵地帯からは、吉井貝塚や八幡神社遺跡といった古墳時代以前の遺跡が多数発見されており、出土した遺物や遺骨からは、弥生時代には既に稲作が行われていた痕跡が見て取れます。

中世、この一帯を含む三浦半島は、現在の衣笠あたりまで内海が広がっており、鎌倉幕府の有力御家人であった三浦氏の支配下にありました。現在の舟倉付近の丘陵には、怒田城（沼田城）を根城とする三浦水軍の重要な拠点が築かれていたと伝えられています。しかし、三浦氏は宝治合戦で北条氏に敗れて滅亡し、久里浜一帯も北条氏の所領となりました。

江戸時代、平作川の河口に位置する久里浜は、かつては川と海が入り混じる湿地帯であり、あまり人が定住しない場所でした。しかし、1660年（万治3年）に砂村新左衛門が約8年の歳月をかけて大規模な新田開発を行い、内川新田が誕生しました。この事業は大変な難工事であったと伝えられており、地元には人柱伝説も残されていますが、開発によってこの地の米の収穫高は飛躍的に増加したと記録されています。また、怒田城跡から浦賀方面へ向かう丘陵地帯は「御林（おんばやし）」と呼ばれ、浦賀奉行の管理下に置かれた江戸幕府の御用林として、江戸大火災発生時の復興用材などに利用されました。

そして、久里浜の歴史における最も画期的な出来事が起こります。1853年（嘉永6年）6月3日、浦賀沖に来航したアメリカ合衆国海軍東インド艦隊司令長官マシュー・ペリー率いる一行が、当時の浦賀奉行との交渉の結果、この地に上陸し、アメリカ大統領からの親書が日本側に手渡されました。当時の久里浜は一介の漁村であったと言われていますが、浦賀からは岬一つ隔てた場所に位置し、大人数の隊列が上陸するのに適した広大な浜があったため、この地が選ばれたのです。

明治維新後、久里浜は帝都防衛の要衝として、横須賀の他の地域と同様に軍事関連施設の建設が進められました。1889年（明治22年）の町村制施行により、三浦郡久里浜村が成立。その後、1937年（昭和12年）に横須賀市へ編入されました。昭和に入ると、1938年（昭和13年）には現在の陸上自衛隊久里浜駐屯地の前身となる海軍通信学校が開設され、交通インフラも整備されました。1942年（昭和17年）に東京急行電鉄（現京急電鉄）の久里浜駅（現在の京急久里浜駅）が開業、続く1944年（昭和19年）には、主に軍事輸送を目的として敷設された横須賀線久里浜駅も営業を開始しました。太平洋戦争末期には、首都に近く、多数の兵員の上陸が可能な浜を持つことから、連合国軍による本土上陸作戦における想定地点の一つとされていました。

第二次世界大戦終結後、旧日本軍の施設は一旦米軍に接収された後、日本に返還され、法務省や国土交通省の施設、自衛隊の駐屯地、各種研究機関、文教施設、そして工業団地など、平和利用のための施設へと姿を変えました。埋め立てられた沿岸部には、地域を象徴する3本の煙突を持つ横須賀火力発電所が立地し、東京湾フェリーの就航によって千葉県の房総半島とを結ぶ海の玄関口としての役割も担うようになりました。

かつて見られた田畑は徐々に姿を消していき、平野部だけでなく丘陵部にも住宅地の開発が活発に進められました（湘南ハイランドなど）。京浜地域への通勤者のベッドタウンとしての性格を強めた結果、1970年代以降、人口は急激に増加し、それに伴い道路や上下水道などの各種インフラも急速に整備されました。ただし、平成期に入ってからは、人口増加は鈍化し、やや減少傾向に転じています。

近年は観光開発にも力が入れられており、色とりどりの花が咲く「くりはま花の国」や、ペリー来航を記念する「ペリー公園（ペリー記念館）」などには、多くの観光客が訪れています。また、地域を代表する恒例イベントとして、毎年7月に開催される「久里浜ペリー祭」があり、記念式典や花火大会、パレードなどが盛大に催され、多くの人々で賑わいます。

地域内には、小中学校や高校、特別支援学校といった教育施設が複数所在し、生活利便施設としては駅周辺の商店街や大型商業施設、スーパーマーケットなどが充実しています。また、防衛装備庁や国土交通省、港湾空港技術研究所などの国の機関、国立病院機構久里浜医療センター、横浜刑務所横須賀刑務支所、久里浜少年院といった公共施設も多く立地しています。交通網としては、京急久里浜駅とJR久里浜駅という二つの鉄道駅、横浜横須賀道路のインターチェンジ、そして久里浜港からのフェリー航路があり、陸・海・空（注：空港施設は無いが広域交通結節点として）の交通結節点としての側面も持ち合わせています。産業面では、電力供給施設や、造船関連、石油関連、情報通信関連など、様々な分野の企業や研究所、工業団地が存在しています。

このように、久里浜は古代から近現代に至る多様な歴史を持ち、特に日本の開国に深く関わるペリー上陸という歴史的な舞台となった地であると同時に、現代においては首都圏のベッドタウン、工業・港湾地域、そして観光地としての多角的な顔を持つ地域として発展を続けています。

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