乙骨三郎

乙骨三郎の生涯と業績

乙骨三郎（おつこつ さぶろう）は、1881年（明治14年）5月17日に東京府牛込区（現在の新宿区）で生まれ、1934年9月19日に53歳で亡くなった、日本の作詞家、音楽教育者です。旧幕臣で英学者であった父・乙骨太郎乙と母・つきの三男として誕生しました。

学問と音楽への情熱

開成中学校を卒業後、第一高等学校を経て東京帝国大学文科大学哲学科に進学。在学中には、カール・フローレンツやラファエル・フォン・ケーベルといった著名な学者から薫陶を受けました。音楽への関心も高く、日本の音楽レベル向上を目指し、歌劇研究を行う「ワグネル会」を結成。1903年には、日本初となる歌劇上演を実現させました。この時上演されたグルック作曲『オルフェオとエウリディーチェ』の翻訳にも、石倉小三郎、近藤朔風らと協力して携わりました。

1904年9月には大学院に進学し、美学を専攻。修了後は、楽友社の雑誌『音楽』に寄稿するなど、西欧音楽の普及に努めました。

教育者としての貢献

1907年には東京音楽学校のドイツ語教師嘱託となり、翌年には教授に就任。西洋音楽の紹介に尽力し、近藤逸五郎が編纂した『独唱名曲集』には、モーツァルトの『すみれ』やシューベルトの『死と乙女』などの訳詞を収めました。また、『日本百科大辞典』の編纂にも参加し、西洋音楽に関する項を執筆しました。

國學院大學講師としても教鞭をとり、文部省の小学唱歌編纂委員としては、『尋常小学唱歌』の出版にも関わり、『日の丸の旗』『浦島太郎』『汽車』『池の鯉』など、現在でも親しまれる多くの唱歌の作詞を手がけました。

晩年と遺された業績

1911年頃から『西洋音楽史』の執筆に取り組みましたが、体調を崩し、1929年頃には肺結核により國學院大學を退官。療養を続けましたが、1934年に53歳で亡くなりました。遺された『西洋音楽史』は、遺弟の太田太郎や高橋均夫妻によって完成され、1935年に出版されました。

多才な人物像

乙骨三郎は、音楽教育者としてだけでなく、作詞家、翻訳家、音楽史研究者としても多才な才能を発揮しました。東京音楽学校や國學院大學での教育活動を通じて、多くの音楽家を育成し、日本の音楽文化の発展に貢献しました。また、唱歌の作詞を通じて、子供たちの情操教育にも大きな役割を果たしました。

親族

乙骨三郎の家族・親族には、父の乙骨太郎乙をはじめ、兄の乙骨半二（古賀廉造事件の担当検事）、弟の乙骨五郎（英文学者）、祖父の乙骨耐軒（儒学者）などがいます。母つきは杉田玄白の曾孫にあたり、従兄弟には詩人・翻訳家の上田敏がいます。また、長女の正木みちは歌人、五男の乙骨明夫は日本近代文学研究者として活躍しました。

主な著書・訳書

• - 『西洋音楽史』（1935年）
• - 『日本百科大辞典』（1908-1919年） - 編纂に参加
• - 『上田敏全集』（1928-1931年） - 編纂委員として参加
• - 『ジーベル唱歌法』（1930年） - 執筆に参加
• - グスタフ・クローン著、乙骨三郎訳『実際的唱歌教授法』（1924年）
• - ザロモン・ヤダースゾーン著、乙骨三郎訳『和声学教科書』（1929年）
• - フェルディナント・バイエル著、乙骨三郎訳、田中規矩士選曲『バイエルピアノ教則本』（1935年）

まとめ

乙骨三郎は、作詞家、音楽教育者、研究者として、多岐にわたる分野で活躍した人物です。彼の功績は、日本の音楽文化の発展に大きく貢献しました。特に、唱歌の作詞は、現在でも多くの人々に愛され、その名前は後世に語り継がれるでしょう。

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