九二共識

九二共識とは何か：中台関係の核心にある合意の概要と論争点

九二共識（きゅうにきょうしき）は、1992年に行われた中国と台湾の当局間協議に端を発する、「一つの中国」原則に関する合意の通称です。この合意は、中台関係の複雑さを象徴するものであり、今日に至るまで様々な解釈と論争を呼んでいます。

九二共識成立の背景

1949年、国共内戦の結果、中国大陸では中華人民共和国が成立し、一方、中国国民党率いる中華民国政府は台湾に拠点を移しました。以後、両政府は互いに正統な国家であると主張し、「二つの中国」を認めないという立場で対立してきました。

1980年代後半、中台間の民間交流が一部解禁されたことを受け、1991年には双方の窓口機関（中国側：海峡両岸関係協会、台湾側：海峡交流基金会）が設立され、当局間の実務交渉が始まりました。中国側は「一つの中国」原則を協議事項に盛り込むよう強く要求しましたが、台湾側は「中国とは中華民国である」との立場を譲りませんでした。

このような状況下で、1992年に香港で協議が行われ、「一つの中国」原則を堅持しつつ、その解釈は中台双方が留保するという内容で、口頭による合意が成立したとされています。これが九二共識と呼ばれるものです。

合意内容をめぐる中台の主張の相違

九二共識の内容について、中華民国（台湾）側は「双方とも『一つの中国』を堅持しつつ、その意味の解釈は各自で異なることを認める」（いわゆる一中各表）と主張しています。一方、中華人民共和国側は「双方とも『一つの中国』を堅持する」（いわゆる一中原則）と主張しており、両者の間には明確なずれが存在します。

この解釈の相違が、九二共識をめぐる論争の根源となっています。

台湾における論争

九二共識の存在は、2000年の中華民国総統選挙で台湾独立を掲げる民主進歩党の陳水扁が当選した直後、大陸委員会主任の蘇起が初めて明らかにしました。しかし、当時の陳水扁総統や李登輝前総統らは、そのような合意は存在しないと反論し、台湾で大きな論争となりました。

その後、2005年には国民党主席が中国共産党総書記との会談で、両党の合意事項として初めて九二共識の文言を明記しました。しかし、民進党政権下の大陸委員会は、九二共識は存在しないとの公式見解を発表し、国民党は合意が存在したことを示す資料が存在すると主張するなど、論争は収束しませんでした。

2008年に国民党の馬英九総統が政権を奪回すると、九二共識を基礎に中台関係を促進する方針を決定しました。しかし、後任の蔡英文総統は九二共識の拒否を明確に打ち出しています。

現在の状況

台湾側の公式見解は、九二共識と一中各表は同義であるというものです。一方、中国側は九二共識とは一中原則であるとの立場であり、一中各表を公式に承認したことはありません。

2012年の総統選に出馬した民進党主席・蔡英文は、九二共識の存在を認めないとする従来の党見解を継承し、これに代わる「台湾共識」の国内法制化を目指すと表明しました。蔡英文は2016年の総統選でも九二共識は唯一の選択肢ではないと主張し、当選を果たしています。

台湾世論の反応

大陸委員会の世論調査によると、「九二共識」の「一つ中国は中華民国を意味する」という馬政権の公式見解について賛同する意見が多いものの、不賛同の意見も一定数存在します。また、「九二共識」は国民党と共産党のコンセンサスであるとの見方には、賛同しない意見が多数を占めています。

まとめ

九二共識は、中台関係における重要なキーワードであり、その解釈をめぐる対立は、中台関係の将来を左右する可能性があります。台湾内部でも、九二共識に対する意見は分かれており、今後の動向が注目されます。

参考文献
記事中脚注に記載

関連項目
台湾共識
一つの中国・二つの中国
台湾問題
海峡交流基金会
海峡両岸関係協会

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