二重橋爆弾事件 (1924年)

二重橋爆弾事件：皇居を狙ったテロ事件の全貌

1924年（大正13年）1月5日、東京府東京市麹町区（現在の東京都千代田区）で、衝撃的な爆弾テロ事件が発生しました。この事件は、朝鮮独立運動の義烈団による犯行であり、皇居を標的とした不敬事件として、当時の日本社会に大きな衝撃を与えました。

事件の概要

事件は、午後7時15分頃、皇居外苑（現在の皇居前広場）を警邏中の警視庁日比谷警察署の岡本緊英巡査が、二重橋付近で怪しい男を発見したことから始まりました。巡査が男に声をかけたところ、男は無言で手榴弾を投げつけ、逃走を試みました。手榴弾は巡査に当たったものの不発に終わり、幸いにも巡査に怪我はありませんでした。男はそのまま二重橋を目指して突進しましたが、皇居正門前の歩哨を務めていた近衛兵2名、福井清一等兵と河原長次郎一等兵が、男の侵入を阻止しました。男はさらに2つの手榴弾を投げつけましたが、これもまた不発に終わりました。その隙に、巡査が男に組み付き、歩哨も加勢して、4名による格闘の末、男は逮捕されました。

逮捕された男は、当初は名前を明かさず抵抗しましたが、特別高等警察の厳しい尋問（拷問）の結果、朝鮮独立運動のテロ組織である上海義烈団のメンバー、金祉燮（キム・ジソプ）であることが判明しました。金は、皇居の門を爆破する計画を立てており、それが不可能であれば、帝国議会に侵入して傍聴席から爆弾を投擲するという第二の計画も持っていました。

犯人と裁判

日本の特高は、金が重大な特命を帯びて日本に潜入するという情報を事前に掴んでいましたが、金が客船ではなく石炭船に密航したため、警戒網をすり抜けていました。金は、手榴弾3つと拳銃を風呂敷に包み、船内で食べるための食パンを大量に持参していました。彼は、船員たちに風呂敷包みにアヘンが入っていると嘘をつき、日本に連れて行くよう頼みました。しかし、船が各地に寄港する間に食パンをすべて食べてしまい、密かに上陸した際には風呂敷包みを宿屋に置いてきてしまいました。不審に思った船員たちが風呂敷包みの中身を確認したところ、手榴弾と拳銃を発見しました。金は船員たちの様子から見られたことを悟り、激怒。船員たちは恐れて逃げ出しました。金はすぐに通報されると思い、急いで夜行列車に乗って東京へ向かい、事件を起こしました。

裁判で金は、「（朝鮮独立運動の殉国者となれるから）死刑か無罪」を主張し、上告も拒否しました。しかし、弁護士が独自に上告を行い、検察が死刑を求刑したものの、裁判所は一審・二審ともに無期懲役を言い渡し、刑が確定しました。金は収監されるなら朝鮮の刑務所へ送ってほしいと請願しましたが、却下され、千葉刑務所に服役しました。その後、昭和天皇の即位記念恩赦により懲役20年に減刑されましたが、1928年（昭和3年）2月20日に市ヶ谷刑務所で獄死しました。また、密航を手助けした3名の船員も、船舶侵入幇助罪で有罪となりました。

手榴弾について

金が使用した手榴弾は精巧な作りでしたが、1つ目の不発は点火栓が折れていたため、2つ目と3つ目の不発は、金が焦って安全弁を外さずに投げたためでした。手榴弾そのものには異常はありませんでした。金は拳銃も所持していましたが、使用することはありませんでした。

事件の影響

二重橋爆弾事件は、皇居という日本の象徴を狙ったテロ事件として、社会に大きな衝撃を与えました。この事件は、朝鮮独立運動の激化を背景に、テロリズムの脅威を改めて認識させる出来事となりました。

この事件は、日本の警察や司法制度にも影響を与え、テロ対策の強化や、裁判における量刑判断の難しさなど、さまざまな問題を提起しました。また、この事件は、その後の日本の歴史におけるテロ事件や社会運動を考察する上で、重要な事例の一つとして位置づけられています。

参考文献

宮内庁 編『昭和天皇実録　第四　自大正十三年至昭和二年』東京書籍株式会社、2015年3月。ISBN 978-4-487-74404-6。
『警視庁史 大正編』（警視庁史編さん委員会編、1960年）
『明治・大正・昭和・平成 事件・犯罪大事典』（事件犯罪研究会編、2002年）
森川哲郎『朝鮮独立運動暗殺史』三一書房、1976年、228-232頁。 ASIN B000J9JHBU
内藤順太郎「国立国会図書館デジタルコレクション 高麗共産黨と義烈團」『社会主義運動と第二憲政擁護運動』東亜社出版部、1924年、22-24頁。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/979577/18 国立国会図書館デジタルコレクション。

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