桜田門事件

桜田門事件：昭和天皇暗殺未遂事件の詳細

桜田門事件は、1932年（昭和7年）1月8日に発生した、昭和天皇の暗殺を目的とした襲撃事件です。この事件は、大正時代から昭和初期にかけて発生した一連の大逆事件の中でも最後のものであり、犯人の李奉昌は、大韓民国臨時政府の抗日武装組織「韓人愛国団」に所属していました。李奉昌は、天皇に危害を加えようとしたとして大逆罪に問われ、死刑判決を受けました。この事件は、李奉昌大逆事件とも呼ばれています。

事件の経緯

1932年1月8日、陸軍始観兵式のため、昭和天皇は皇居から行幸されました。午前11時44分頃、還幸の列が皇居・桜田門の外、警視庁庁舎前に差し掛かった際、沿道にいた李奉昌が馬車に向けて手榴弾を投げつけました。標的となったのは二両目の御料馬車で、宮内大臣の一木喜徳郎が乗車していましたが、幸いにも天皇が乗っていた三両目の馬車には被害はありませんでした。手榴弾は馬車の左後輪付近で爆発し、馬車にわずかな損傷を与えたものの、爆発の威力は小さく、隊列はそのまま皇居に到着しました。この爆発で、近衛騎兵1人と馬2頭が負傷しました。

昭和天皇は三両目の御料馬車に乗車しており、手榴弾の爆発は32メートルも前方で起こりました。天皇は爆発音を聞いたものの、非常に冷静で、帰還後も事件について何も語らなかったと伝えられています。事件後、李奉昌は現場で逮捕されました。

犯人：李奉昌

逮捕された李奉昌は、朝鮮京城（現ソウル）出身で、朝鮮独立を目指す金九が組織した抗日武装組織・韓人愛国団から派遣された刺客でした。李奉昌は、事件の数日前に東京朝日新聞で天皇が観兵式に出席することを知り、犯行に及ぶことを決意しました。

犯行当日、李奉昌は憲兵曹長の名刺を使い、二度の警戒網を突破しました。当初は赤坂付近で襲撃する予定でしたが、準備中に日本酒を飲んでしまったため、行幸の列を見過ごしてしまいました。その後、タクシーで移動し、警視庁正門前で奉拝者の列に紛れ込み、手榴弾を投げつけたのです。李奉昌は、どの馬車に天皇が乗車しているかを知らなかったため、最初の馬車に投げようとしたものの、躊躇し、次の馬車に向けて投げた結果、二両目の馬車を狙撃する形となりました。

裁判と判決

この事件は大逆罪にあたるため、東京地方裁判所検事正は、即日、検事総長に送致しました。その結果、大審院での審理が行われることになり、大審院は東京地方裁判所判事に予審を命じました。6月30日までに予審が終了し、7月19日に公判開始日が決定しました。9月16日に公判が開かれ、予審調書を採用して即日結審し、9月30日、李奉昌に対し、死刑判決が言い渡されました。10月10日、李奉昌は市谷刑務所にて死刑が執行されました。

事件の影響

桜田門事件は、犬養内閣に大きな衝撃を与え、内閣は責任問題について緊急閣議を開きました。大正12年（1923年）の虎ノ門事件の際には内閣が総辞職したため、内閣総辞職を求める意見と、自重を求める意見が出ました。最終的には、内閣総辞職の意向を示しましたが、昭和天皇の意向により、犬養内閣は留任することになりました。また、警視総監が罷免されるなどの影響がありました。

一方、上海では、中国国民党の機関紙が事件を好意的に報道したことから、日本人社会が反発し、日中関係が緊張し、これが第一次上海事変の一因となりました。

関連事件

二重橋爆弾事件 (1924年)
虎ノ門事件
上海天長節爆弾事件

参考文献

犬養毅伝刊行会 編「国立国会図書館デジタルコレクション 大逆事件の突發と犬養内閣の總辭職及び留任」『犬養毅伝』犬養毅伝刊行会、1932年。
Voice編集部 編『Voice』2015年 02月号、戦後70年　日本の言い分、PHP研究所、2015年。
森川哲郎『朝鮮独立運動暗殺史』三一書房、1976年。

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