五日市憲法

五日市憲法とは

五日市憲法（いつかいちけんぽう）は、明治時代初期に民間で作成された私擬憲法の一つです。1968年（昭和43年）に東京経済大学の学生によって、東京都西多摩郡五日市町（現在のあきる野市）の深沢家の土蔵から発見されました。発見場所からその名が付けられ、本文は「日本帝国憲法」という題で始まっています。

成立の背景

1874年（明治7年）、板垣退助が『民撰議院設立建白書』を提出し、国会開設を提唱しました。1880年（明治13年）には、自由民権運動が愛国社を中心に全国的な盛り上がりを見せ、第一回国会期成同盟会が開かれました。この中で、国会で議論するための憲法草案を各団体が作成することが決定されました。

1881年（明治14年）、当時神奈川県に属していた五日市町で、五日市憲法が私擬憲法として作成されました。五日市学芸講談会のメンバーであった千葉卓三郎が起草したとされています。しかし、同年には国会開設の詔が発せられ、明治天皇の名の下に欽定憲法を制定することが示されたため、私擬憲法が議論の対象になることはなくなりました。

内容の特徴

五日市憲法草案は全204条からなり、国民の権利を重視した内容が特徴です。例えば、45条では「日本国民ハ各自ノ権利自由ヲ達ス可シ他ヨリ妨害ス可ラス且国法之ヲ保護ス可シ」とあり、自由権を保障しています。具体的には、平等の権利、出版・表現の自由、信教の自由、結社・集会の自由などが条文に盛り込まれています。また、150条では基本的人権に触れ、国民の権利保障を重視しています。さらに、国事犯（政治犯）に対する死刑の禁止、教育を受ける権利、義務教育、自治権の不可侵なども規定されており、当時としては画期的な内容でした。

しかし、五日市憲法草案には、制定された『大日本帝国憲法』に似た、強大な天皇大権を認める条項も含まれています。天皇の権限は議会よりも強く、軍隊の統帥権を持ち、35条には「国帝ハ、国会ニ議セズ特権ヲ以テ決定シ、外国トノ諸般ノ国約ヲ為ス」、38条では「国帝ハ、国会ヨリ上奏シタル起議ヲ允否（いんぴ）ス」とあります。これらの条項は、天皇が国会の関与なしに条約を締結したり、議会の議決を拒否できることを意味しています。さらに、27条には「国帝ハ特命ヲ以テ既定宣告ノ刑事裁判ヲ破毀シ何レノ裁判庁ニモ之ヲ移シテ覆審セシムルノ権アリ」とあり、天皇の命令によって刑事裁判のやり直しができる規定があり、司法の独立が不十分であることが指摘されています。

このように、五日市憲法は、第一篇の天皇大権の規定と第二篇の国民の権利保障に矛盾が存在し、「進んだ人権保障、遅れた政治機構」と評されることもあります。

その後の動向

五日市憲法草案は、五日市に住んでいた農民たちの学習成果をまとめたものであり、当時の民衆の自由や権利に対する意識の高さを表しています。

『五日市憲法』は東京都の有形文化財（古文書）に、深沢家屋敷跡（土蔵などが残る）は史跡に指定されています。前者は東京経済大学で保管されていましたが、後にあきる野市の中央図書館に移管されました。

関連事項

植木枝盛: 同じく私擬憲法である「東洋大日本国国憲按」を起草した人物。
学芸講談会: 五日市憲法を作成したとされる団体。
深沢権八: 五日市憲法が発見された土蔵の所有者。
映画『五日市物語』：五日市憲法を題材にした映画。
日本国憲法: 現行の日本の憲法。五日市憲法と比較して研究されることがある。

外部リンク

あきる野市 デジタルアーカイブ - 五日市憲法の草案写真およびその書き下し文（PDF）
【現代語訳】千葉卓三郎「五日市憲法(日本帝国憲法)」
皇后陛下お誕生日に際し（平成25年） - 宮内庁

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