五流尊瀧院

五流尊瀧院は、岡山県倉敷市林に位置する修験道の寺院であり、その歴史は古く、修験道の祖とされる役小角（役行者）にまで遡ります。本尊は十一面観音で、天台修験系の一宗派である修験道の総本山として、その重要な役割を担っています。現在の管長は、慶應義塾大学名誉教授の宮家準氏が務めています。

起源と発展

伝説によれば、役小角は文武天皇3年（699年）に朝廷から訴追を受け、熊野本宮に隠棲した後、伊豆大島へ配流されました。その際、5人の弟子たちが熊野本宮の御神体を捧持し、各地を放浪しました。役小角が赦免された大宝元年（701年）、弟子たちは神託を得て現在の熊野神社の地に紀州熊野本宮を遷座し、それぞれが五流の寺院を建立しました。その中でも、尊瀧院が中心的な寺院として位置づけられました。

奈良時代に入ると、皇室の熊野崇敬と相まって、聖武天皇が児島一円を社領として寄進しました。天平宝字5年（761年）には、紀州熊野と同様の社殿（十二社権現宮）が整備され、付近に諸興寺や新宮、由伽寺、那智宮が建てられ、新熊野三山が形成されました。熊野神社と修験道の寺院が一体となった神仏習合の形態は、宗教施設として繁栄しましたが、平安時代中期以降は衰退しました。

中世の再興と変遷

承久3年（1221年）の承久の乱では、後鳥羽上皇の皇子・覚仁親王が難を逃れてこの地に下り、さらに後鳥羽上皇の第4皇子である頼仁親王が配流となりました。頼仁親王は衰退していた五流の寺院と十二社権現宮を再興し、南北朝時代まで繁栄をもたらしました。しかし、次第に衰退し、尊瀧院のみが残りました。現在まで続く歴代大僧正は頼仁親王の子孫と伝えられています。南北朝時代には、後醍醐天皇の奪還を試みた児島高徳がこの地の出身であり、境内には児島高徳社が祀られています。

現在の五流尊瀧院は、倉敷市立郷内小学校の北に隣接していますが、元々は熊野神社と隣接していました。室町時代には応仁の乱により戦火に見舞われ、新熊野は焼き討ちにあい、ほぼ全焼しました。

近代以降

明治時代になると、神仏分離令により十二社権現は熊野神社となり、五流尊瀧院は分離しました。明治5年（1872年）の修験道廃止に伴い天台宗寺門派に属しましたが、太平洋戦争終結後、天台宗から独立し、修験道総本山となりました。

2003年（平成15年）には、修験者の寄宿所であった長床（熊野神社拝殿）を失火により全焼しましたが、2007年（平成19年）に再建されました。

文化財

五流尊瀧院には、数々の貴重な文化財が所蔵されています。

国指定重要文化財
石造宝塔（後鳥羽上皇御影塔）: 仁治元年（1240年）に後鳥羽上皇の一周忌供養のため、頼仁親王と覚仁親王によって建立されたとされています。内部には上皇の分骨が安置されていると伝わります。

岡山県指定重要文化財
三重塔: 文政3年（1820年）建立の三重塔で、本瓦葺き、高さ21.5メートルを誇ります。熊野神社境内に隣接して建っています。
梵鐘: 康正3年（1457年）に鋳造されたもので、釈元柔の発願による銘があります。熊野神社境内の鐘楼に懸けられています。
木造十一面観音立像: 当院の本尊で、鎌倉時代以降の作と伝えられています。
短刀・信国（附・葵紋合口拵）: 延文2年（1357年）の銘があり、山城国の刀工・初代信国の作とされています。

その他にも、大久保利通が暗殺された際に乗っていた馬車が、大久保家により永代供養のため奉納されており、五流会館に安置されています。

アクセス

JR瀬戸大橋線植松駅より南西へ徒歩25分、木見駅より北へ徒歩20分。
瀬戸中央自動車道水島IC下車、東へ約5分。


五流尊瀧院は、修験道の歴史と文化を今に伝える貴重な場所であり、訪れる人々に深い感動を与えています。

参考文献

岡山県高等学校教育研究会社会科部会歴史分科会/編『新版 岡山県の歴史散歩』山川出版社、1991年 102-103ページ
現地説明板

関連項目

前鬼・後鬼

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