五稜郭 (テレビドラマ)

五稜郭（1988年 日本テレビ年末時代劇スペシャル）

『五稜郭』は、1988年12月30日および31日に日本テレビ系列で放映された「年末時代劇スペシャル」シリーズの第4作にあたります。この作品は、元号が平成へと変わる直前に放送された、昭和最後の年末時代劇スペシャルとしても記憶されています。両日とも20時3分から23時までの長時間にわたり、本編開始前には約3分間の見どころ紹介番組も別途放送されました。

作品概要

本作は、激動の戊辰戦争、中でも特に箱館戦争を舞台に、旧幕臣の中心人物である榎本武揚の波乱に満ちた半生を描き出した歴史大作です。主役の榎本武揚を里見浩太朗が演じ、田村高廣と三浦友和が特別出演するなど、豪華キャストが揃いました。当時の「年末時代劇スペシャル」は高い人気を誇っており、局側も多大な力を注ぎ込んでいました。その規模は製作費約10億円ともいわれ、前年の『田原坂』よりは若干短いものの、約4時間50分という堂々たる本編時間を誇ります。また、一連のシリーズ作品として、前々年の『白虎隊』で描かれた会津戦争終結後の後日譚的な要素も含まれており、『白虎隊』『田原坂』に連なる「幕末三部作」の完結編と位置づけられています。作品は後にDVD化、ビデオ化され、現在も視聴することが可能です。

物語のあらすじ

物語は、慶応4年（1868年）に始まる戊辰戦争が蝦夷地へと波及し、新たな局面を迎えるところから始まります。ナレーションでは、幕府崩壊後も蝦夷地で夢を追い続けた旧幕臣たちの姿が描かれます。彼らは蝦夷に独立した政権を樹立することを夢見、その象徴を五稜郭に求めました。

前篇：江戸最後の日―男たちの選択―

文久2年（1862年）からオランダに留学していた榎本釜次郎（武揚）は、慶応3年（1867年）に最新鋭の軍艦開陽丸に乗って帰国します。直後に佐藤泰然の孫娘・多津と結婚しますが、彼が尽くそうとした徳川幕府はすでに滅亡の淵にありました。長崎海軍伝習所時代の先輩である勝海舟が、新時代のために幕府の終焉を画策する中、海外情勢に精通しながらも国内の混乱を知らない榎本は、戦争回避を目指す勝の融和的な姿勢に反発します。幕府や薩長の枠を超え、日本の将来を見据える勝の真意を当初理解できなかった榎本は、同様に新政府に不満を抱く新選組副長・土方歳三ら多くの旧幕臣たちと共に、北の大地・蝦夷を目指すことを決意します。そこには彼らの新たな夢がありました。しかし、蝦夷地の厳しい気候を甘く見た一行は、主力艦である開陽丸を座礁させてしまうという大きな痛手を負います。

後篇：幻の蝦夷共和国―箱館戦争―

蝦夷地に到着した榎本たちは、日本で初めての選挙を行い、榎本が蝦夷共和国の総裁に選出されます。彼らは蝦夷の独立国としての承認を新政府に求めますが、一蹴されます。開陽丸を失った蝦夷軍は軍事力の回復を図るため、土方らが宮古湾へ向かい、新政府の最新鋭艦・甲鉄号を奇襲によって奪取しようとします（宮古湾海戦）。しかし、政府軍参謀の黒田清隆に作戦を察知され、この奇襲は失敗に終わります。やがて新政府軍が蝦夷に上陸し、蝦夷軍は次第に劣勢に追い込まれていきます。榎本の考えを理解し始めていた土方や中島三郎助らも戦死し、孤立無援となった榎本は切腹を試みますが、松平太郎や大鳥圭介、大塚霍之丞らに説得されて思いとどまります。黒田をはじめとする政府軍の一部にも、榎本らの才能を惜しむ声があり、降伏を待っていました。箱館病院長の高松凌雲の仲介により、蝦夷共和国軍はついに降伏しました。

エピローグ：ウラルを越えて

降伏した榎本は逆賊として捕らえられますが、黒田清隆や福沢諭吉、そして義理の祖父である佐藤泰然らの尽力によって、数年後には赦免されます。その才覚を高く評価され、榎本は新政府に仕官することになります。やがて、樺太千島交換条約批准のため、ロシアへの全権大使として黒田に推薦された榎本は、サンクトペテルブルクへの赴任を終え、帰路シベリアに立ち寄ります。広大なシベリアの光景を目にした榎本は、かつて蝦夷地で抱いた夢に何を思ったのか、その去来する思いが示唆されて物語は幕を閉じます。

主な出演者とスタッフ

本作には多くの実力派俳優が出演しています。主役の榎本武揚を里見浩太朗が演じ、妻の多津を浅野ゆう子、義理の祖父・佐藤泰然を森繁久彌が演じました。蝦夷共和国側では、土方歳三を渡哲也、高松凌雲を風間杜夫が演じるなど、重厚な配役が話題となりました。新政府側では、勝海舟を津川雅彦、黒田清隆を西郷輝彦、木戸孝允をあおい輝彦、そして福沢諭吉を中村雅俊が演じるなど、歴史上の重要人物が多数登場しました。

脚本は、本シリーズで『忠臣蔵』『白虎隊』『田原坂』に続き4作目となる杉山義法が担当しました。前3作で主役が死を迎える結末が続いたことから、杉山は「主役が死なない」題材として箱館戦争を選んだといいます。監督は齋藤光正。音楽は川村栄二が手掛け、さだまさしの「夢の吹く頃」が主題歌となりました。

制作と特撮

本作は大規模なセット制作でも知られます。特に、軍艦・回天丸のオープンセットは琵琶湖畔に実物大で建造され、「劇場映画でも見たことがないほどの豪華さ」と評されました。

特撮パートは、当時の東宝特撮を率いていた川北紘一が特技監督として参加しました。開陽丸などの軍艦や弁天台砲台、五稜郭といった主要な舞台は精巧なミニチュアで表現されています。海戦シーンは東宝撮影所の大型プールを使用して撮影され、近景の水柱はプールに仕込んだ火薬で、遠景の水柱はフロンガスを使って表現されるなど、当時の特撮技術が駆使されました。

地方局での放送状況

本作が放送された1988年12月30日（金）と31日（土）は年末にあたり、一部のクロスネット局では通常編成と異なる対応が見られました。多くのNNN系列局は同時ネットで放送しましたが、特に九州地方のフジテレビ系列やテレビ朝日系列とのクロスネット局では、プライムタイムの通常編成がNNN系列ではない場合があり、放送日時が変更されるケースがありました。例えば、テレビ長崎や鹿児島テレビでは前編は同時ネット、後編は年明け午後に放送。テレビ大分やテレビ宮崎では前後編ともに年明けのローカル枠での遅れネットとなりました。また、当時NNN系列局がなかった沖縄県では、約1年遅れでTBS系列の琉球放送が放送しました。これらの状況は、当時の地方局における複雑な編成事情をうかがわせます。

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