五箇伝

五箇伝の概要

五箇伝（ごかでん）は、日本刀の歴史における五つの主要な刀工流派を指しています。これらの流派は、かつての令制国である大和国・山城国・備前国・相模国・美濃国に由来しています。それぞれの流派は、大和伝、山城伝、備前伝、相州伝、美濃伝と称され、その他の小規模な流派は「脇物」と呼ばれます。これらの流派の体系を確立したのは、代々足利将軍家に仕えた研師たちであり、豊臣秀吉の時代以降には刀の鑑定も行っていた本阿弥家がその中心的存在でした。特に、本阿弥光遜が五箇伝をまとめ上げたとされています。確認された刀工数は、備前が4005、美濃が1269、大和が1025、山城が847、相州が438でした。

大和伝

大和伝は現在の奈良県にあたる大和国で発展した流派で、奈良は古代日本の中心地でした。伝説によれば、天国という刀工が初めて刀の柄に銘を切ったとされ、そのため彼がこの流派の創始者とも見なされています。ただし、文献上確認できる最も古い刀工は平安時代中期の行信です。大和伝は、千手院派、尻掛派、当麻派、手掻派、保昌派の五つの派に分かれ、それぞれの寺院の指導のもとで刀を製作していました。室町時代中期には他の地域にも刀工が移り、流派は次第に消滅していきます。

大和伝の特徴としては、主に輪反りという形状があり、身体が深く湾曲しており、身幅が狭めです。鎬が高く、切先が小さいことも特徴の一つで、刃文は直刃で沸の粒子は中程度のサイズです。大和伝は装飾を抑え、力強い印象を与える刀として評価されることが多く、実用性重視の観点からも評価されています。

山城伝

山城伝は京都府に当たる山城国で発展した流派です。794年に桓武天皇が都を移して以来、多くの刀工が集まりました。創始者は平安時代後半の三条宗近で、三条派や綾小路派、粟田口派、来派などの派が存在しました。初期は貴族向けの美的な刀剣が重視されたため、実用性はあまり考慮されませんでしたが、源平合戦を経て、実戦での利用が重視されるようになりました。鎌倉時代には豪壮な刀が流行し、その後の技術革新も見られました。

山城伝の刀剣は細長く、腰反りや輪反りが特徴的で、刃文は直刃で沸が小さいため、上品な印象を持ちます。これらの刀は実用的かつ美意識に富んだ作品として評価されています。

備前伝

備前伝は岡山県にあたる備前国で生まれた流派です。ここは良質な砂鉄の産地として知られており、古備前派がその源流です。主な流派には古備前派、福岡一文字派、吉岡一文字派、長船派、畠田派があります。鎌倉時代において、備前伝の刀工は高い評価を得て、優れた刀工が次々と登場しました。

備前伝の刀剣の特徴には、腰反りと混じった板目肌、そして派手な丁子文の刃文が見られ、乱れ映りを含む独特な美しさがあります。しかし、1590年の吉井川の大洪水により、大きな打撃を受け、繁栄の時代は終わることとなります。

相州伝

相州伝は神奈川県に相当する相模国を発祥とする流派です。鎌倉幕府の設立に伴い、多くの刀工が集まるようになりました。新藤五国光は、山城伝や備前伝の技術を取り入れ、革新的な刀剣を作り出しました。彼らは戦の経験から強靭な刀剣を求めるようになり、その技術は後の刀剣にも影響を及ぼしました。

相州伝の刀剣は反りが浅く、身幅が広く、薄い断面形状を持ち、互の目の刃文が特徴的です。この時期の刀剣は、特に実用性が重視され、高い評価を得ました。

美濃伝

美濃伝は岐阜県にあたる美濃国で生まれた新しい流派です。美濃国は交通の要所として、多くの刀工が集まる地でした。相州伝の影響を受けつつ、独自のスタイルを築いていきました。

美濃伝の刀剣は鎬がやや高く、薄い重ねを持ちつつ、柾目肌と板目肌が混じる独特の表面を持ちます。また、刃文は互の目、沸が弱い特徴があります。

まとめ

五箇伝は、それぞれの地域の特性と歴史に根ざした多様なスタイルを示しており、今日においても多くの日本刀愛好家によって評価されています。

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