井上正利

井上正利：江戸幕府を支えた大名の生涯

井上正利（いのうえ まさとし）は、江戸時代前期に活躍した大名であり、幕府の要職である寺社奉行を務めました。遠江横須賀藩（現在の静岡県掛川市周辺）の第2代藩主、後に常陸笠間藩（現在の茨城県笠間市）の初代藩主となった人物です。井上家は、徳川氏に仕えた譜代の家臣であり、正利はその家系を継承し、幕府の安定に貢献しました。

生い立ちと家督相続

慶長11年（1606年）、井上正利は徳川氏の家臣である井上正就の長男として生まれました。父・正就は江戸幕府の老中という重職にありましたが、寛永5年（1628年）に江戸城内で旗本の豊島信満によって殺害されるという悲劇に見舞われます。しかし、幕府は正利の相続を認め、同年10月には遺領5万2500石のうち5000石を弟の正義に分与し、正利は遠江横須賀藩4万7500石を相続しました。

横須賀藩主となった正利は、前領主の大須賀氏から続く城下の町整備を引き継ぎ、発展に尽力しました。また、父・正就の菩提を弔うため、本源寺（現在の静岡県掛川市）を建立し、父の供養を行いました。

常陸笠間藩主、そして寺社奉行へ

慶安2年（1649年）、井上正利は奏者番に任ぜられ、5万石をもって常陸笠間藩に転封となります。笠間藩主として、正利は領内の検地を実施し、寺社の保護に力を入れました。また、笠間城の改修を行うなど、藩政の安定に努めました。

明暦4年（1658年）7月4日、井上正利は寺社奉行に任ぜられます。寺社奉行は、幕府の宗教政策や寺社の管理を司る重要な役職でした。しかし、在職中、老中・酒井忠清とはそりが合わず、忠清の藩邸から何度か夕食に招かれましたが、一度も応じませんでした。このことが、「下手三味線」というあだ名につながります。これは、忠清の官職である「雅楽頭（うたのかみ）」にかけて、歌（幕府の政策）にあわない、という意味合いが込められていました。寛文7年（1667年）12月18日、井上正利は寺社奉行を辞職しました。

隠居と晩年

寛文9年（1669年）6月、井上正利は隠居し、家督を長男の正任に譲りました。また、五男の正信に新田2000石、六男の正興に1000石をそれぞれ分与しました。延宝3年（1675年）、井上正利は生涯を終えました。

系譜

父：井上正就
母：市川孫左衛門の娘
正室：鳥居成次の娘
子女
井上正任（長男）：生母は正室
井上正信（五男）：生母は正室
井上正興（六男）
植村家貞継室、生母は正室
青山幸実正室、生母は正室
森川重信正室
* 小出英利正室

井上正利は、激動の時代を生き抜き、幕府の要職を務めながら、藩政の安定にも尽力した人物でした。その生涯は、江戸時代前期の政治・社会情勢を理解する上で重要な手がかりとなります。

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