井上知治

井上 知治（いのうえ ともはる）は、1886年（明治19年）7月9日に生まれ、1962年（昭和37年）9月19日に76歳でその生涯を閉じた、昭和期を代表する政治家の一人です。衆議院議員として通算7期、参議院議員として1期を務め、国務大臣などの要職を歴任しました。

生い立ちと初期のキャリア

井上知治は、鹿児島県頴娃郡郡村（現在の南九州市）で誕生しました。旧制宮崎県立都城中学校、そして第七高等学校造士館で学び、1917年（大正6年）に東京帝国大学法学部政治学科を卒業しています。大学卒業後、井上はすぐに政治の道へ進んだわけではありません。当初は鈴木商店に勤務し、その後は読売新聞の記者として社会経験を積みました。

政界への挑戦と衆議院時代（戦前）

ジャーナリストとして活動する中で政界を志し、国政の舞台を目指すことになります。最初の挑戦は1924年（大正13年）の第15回衆議院議員総選挙でした。この時は鹿児島県第3区から政友本党公認で立候補しますが、惜しくも落選します。続く1928年（昭和3年）の第16回総選挙では鹿児島県第1区に選挙区を移し、立憲民政党公認として立候補しますが、再び当選は叶いませんでした。

三度目の挑戦となった1930年（昭和5年）の第17回衆議院議員総選挙で、井上は立憲政友会公認として鹿児島県第1区から出馬。念願の初当選を果たし、ようやく国会議員としての第一歩を踏み出しました。以後、1932年の第18回、1936年の第19回、1937年の第20回と、立憲政友会公認候補として連続して当選を重ねます。この間、党内では床次竹二郎、後に中島知久平といった有力政治家が率いる派閥に属し、戦前の衆議院議員として通算4回の当選を記録しました。しかし、第二次世界大戦中の1942年（昭和17年）に行われた第21回総選挙では、翼賛政治体制協議会の非推薦候補として立候補したため落選しています。

戦後の政治活動と要職

終戦を経て、日本の政治状況が大きく変化する中で、井上は再び政界の中心へと復帰します。1946年（昭和21年）、戦後初の総選挙である第22回衆議院議員総選挙に鹿児島県全県区から日本進歩党公認で立候補し当選。翌1947年（昭和22年）の第23回総選挙では民主党公認で、1949年（昭和24年）の第24回総選挙では民主自由党公認で、いずれも鹿児島県第1区から当選を果たしました。これにより、戦後も衆議院議員として3回当選し、戦前と合わせて通算7回の当選回数となりました。

戦後の混乱期から復興期にかけて、井上は所属政党を度々変遷させます。日本進歩党に始まり、民主党、同志クラブ、民主自由党、自由党、そして自由民主党と、目まぐるしく変わる政治状況に合わせてその立ち位置を移していきました。

衆議院議員として活動する中で、井上は国政の要職を歴任します。1947年には衆議院副議長という議院運営の要となる役職に就任しました。さらに翌1948年（昭和23年）には、第2次吉田茂内閣において国務大臣として入閣。賠償庁長官を兼務し、戦後日本の賠償問題や復興に関わる重要な役割を担いました。

参議院議員へ、そして引退

衆議院での豊富な経験を積んだ後、井上は新たな舞台へと移ります。1953年（昭和28年）の第3回参議院議員通常選挙に鹿児島県地方区から自由党公認で立候補し、当選。参議院議員として1期6年の任期を務め上げました。この参議院議員の任期満了をもって、井上知治は長きにわたる政治家としての活動に区切りをつけ、政界を引退しました。

政治家としての活動の傍ら、学校法人東京歯科大学の理事長を務めるなど、多岐にわたる分野で社会に貢献しています。

死去

政界引退から数年後の1962年9月19日、井上知治は脳出血のため逝去しました。享年76歳。激動の昭和期において、戦前・戦後を通じて衆参両院で活躍し、国務大臣などの重責も担ったその政治家人生は幕を閉じました。

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