井上道節因碩

井上道節因碩（いのうえ どうせついんせき）

井上道節因碩（1646年 - 1720年）は、江戸時代の著名な囲碁棋士であり、井上家四世、そして五世名人碁所を務めました。元の名は桑原道節といい、その卓越した棋力から「名人因碩」とも呼ばれました。彼は、古今を通じて最も難解とされる詰碁集『囲碁発陽論』の著者としても知られています。

生涯

美濃国大垣（現在の岐阜県大垣市）に生まれた道節は、1歳年上の本因坊道策に師事し、その才能を開花させました。道策門下の中でも特に優れた五弟子（五虎）または六天王の一人に数えられ、七段準名人にまで昇りつめました。

1684年に本因坊跡目を小川道的が継承しましたが、1690年に道的に不幸があり死去。道節はその後、跡目を巡って争碁を望んだとされています。同年、道策の弟である三世井上因碩（道砂因碩）の養子となり、井上家の跡目となりました。しかし、道節は道砂よりも年上であったという逸話も残っています。

1690年、45歳で御城碁に初出仕を果たし、その実力を示しました。1692年には佐山策元が本因坊跡目となりますが、1699年に佐山も亡くなります。道策はその後、神谷道知の育成に力を注ぎました。

1696年に三世井上因碩が没すると、翌1697年に道節は井上家の家督を継ぎ、四世井上因碩となりました。1702年に道策が亡くなる際、道節を八段準名人に推薦し、道知の後見役を託しました。さらに、碁所を望まない旨の誓約書を書かせた上で、道節を本因坊家に住まわせ、道知の指導に当たらせました。1706年、61歳の時には、15歳の道知と十番碁を打ち、道知に定先で3勝6敗1ジゴという結果に終わりました。この時の第6局における道節の16手目が悪手として知られ、「上大ゲイマ締まりの一局」として語り継がれています。翌年には道知に先相先で七番碁を打ち、道知が勝ち越したことで道知は七段に進み、道節は後見役を解かれました。

1708年、名人九段に進みますが、碁所には就任しませんでした。1710年、琉球国中山王の貢使随員であった屋良里之子が、道節の斡旋により道知と三子局を打ち、中押勝ちを収めました。屋良に免状を発行する必要が生じたため、道節が碁所に就任することになりました。

1713年には、難解な詰碁集として名高い『囲碁発陽論』を著しましたが、これは門外不出とされました。この詰碁集は、後に古今最高の詰碁集として評価され、「不断桜」という別名でも呼ばれています。

道節は1702年に、道策門下の三崎策雲を跡目として井上因節としました。1719年に死去し、因節が五世井上因碩を継承しました。御城碁の通算成績は6勝3敗1ジゴです。弟子には、屋良里之子と対戦した相原可碩や、後に井上策雲因碩の跡目となる高橋友碩などがいます。

細川家との関わり

1705年、熊本藩に過失があった際、道策の母が藩主細川綱利の乳母であった関係から、道策は牧野成貞らに働きかけるとともに、道節に井上家屋敷を担保にさせるなどして3200両を工面させました。これにより、幕府からのお咎めはなかったといいます。この功績により、井上家は細川家から300石を賜り（後に永代150石）、以後も細川家とは深い関係を築きました。

御城碁戦績

1690年(元禄3年) 先番6目勝 安井知哲
1691年(元禄4年) 先番中押勝 安井知哲
1693年(元禄6年) 白番1目負 安井知哲
1694年(元禄7年) 先番5目勝 安井知哲
1695年(元禄8年) 向三子5目負 林玄悦門入
1696年(元禄9年) 白番5目負 本因坊策元
1697年(元禄10年) 白番中押勝 安井知哲
1698年(元禄11年) 白番ジゴ 安井仙角
1699年(元禄12年) 先番中押勝 安井知哲
1701年(元禄14年) 白番11目勝 安井仙角

代表局

四世井上因碩-本因坊道知（先）十番碁第7局 宝永3年（1706年）2月23日

右辺の黒の打ち込みに対する白1(66手目)に、黒が2、4とツケ切った時の白5が好手で、以下白15まで黒を封じ込めて優勢となった。132手まで白中押勝。

著作

『伝信録』1706年（本因坊道知らとの共著、本因坊家と碁界の記録）
『石配通図精修編』
『碁経専要集』
『要津定規』
『囲碁発陽論』1713年

関連項目

詰碁
終身名人の一覧

参考文献

安藤如意、渡辺英夫『坐隠談叢』新樹社 1955年
『道的・名人因碩（大平修三）』日本囲碁大系4
福井正明『道的・道節・道知 元禄三名人打碁集』誠文堂新光社 2009年

外部リンク

木石庵「井上道節因碩」

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