交響曲第1番 (エルガー)

エルガー：交響曲第1番 変イ長調 作品55

エドワード・エルガーの交響曲第1番 変イ長調 作品55は、1907年から1908年にかけて作曲された、彼のキャリアの中でも特に重要な位置を占める管弦楽作品です。この記念碑的な作品は、初演の指揮者である著名な音楽家、ハンス・リヒターに献呈されました。

初演とその影響

作品の初演は、作曲が完了した翌年の1908年12月3日、イギリスの主要都市マンチェスターにあるフリートレードホールで行われました。指揮は献呈を受けたリヒター、演奏は地元の名門であるハレ管弦楽団が担当しました。リヒターはこの交響曲を聴き、「当代最高の交響曲だ」と惜しみない賛辞を送りました。一方で、楽曲の構成に対する批判的な意見や、特定の旋律の反復がややくどいと感じる向きもあったようです。

しかし、こうした様々な見方にもかかわらず、初演は空前の大成功を収め、熱狂的な反響を巻き起こしました。この人気は一時的なものにとどまらず、初演からわずか一年間で百回以上も再演されるという驚異的な広がりを見せました。これは、当時のイギリス楽壇におけるエルガーの揺るぎない地位と、この交響曲が聴衆の心に深く響いたことの証と言えるでしょう。今日でも、この交響曲はイギリス国内をはじめ、アメリカ合衆国などでも頻繁に演奏されており、エルガーの代表作として広く親しまれています。

編成

この交響曲は、充実した編成のオーケストラのために書かれています。

フルート3（うち1本はピッコロに持ち替え）
オーボエ2
イングリッシュホルン
クラリネット2
バスクラリネット
ファゴット2
コントラファゴット
ホルン4
トランペット3
トロンボーン3
チューバ
ティンパニ
小太鼓
大太鼓
シンバル
ハープ2
* 弦五部（ヴァイオリン第一部、ヴァイオリン第二部、ヴィオラ部、チェロ部、コントラバス部）

全体の構造と特色

交響曲は伝統的な4つの楽章で構成されており、全体の演奏時間は約55分です。この作品を特徴づける要素の一つに、楽曲の冒頭に提示される特定の旋律が「循環主題」として、楽章を超えて繰り返し現れる点が挙げられます。この循環主題に加え、第1楽章の主要な主題から派生する多様な動機が楽曲全体に散りばめられており、非常に緊密で有機的な構成を生み出しています。

興味深いのは、作品名が「変イ長調 作品55」とされているにもかかわらず、楽曲全体が明確に変イ長調であるのは、第1楽章の序奏と終結部、そして第4楽章の終結部といった限られた部分のみであるという点です。実際には、第1楽章の主部がニ短調、第2楽章が嬰ヘ短調、第3楽章がニ長調、第4楽章の序奏と主部がニ短調と展開するため、全体としてはニ短調の持つ劇的で力強い性格が前面に出ていると言えるでしょう。

各楽章の解説

第1楽章：Andante. Nobilmente e semplice － Allegro

序奏付きのソナタ形式で構成されています。変イ長調、4/4拍子で始まるゆったりとした序奏では、この交響曲の根幹をなすモットー主題が、ヴィオラと木管楽器によって荘重かつシンプルに提示されます。このモットー主題がオーケストラ全体で響き渡った後、区切りを経てアレグロの主部（2/2拍子）へ入ります。主部はニ短調に移り、情熱的で力強い第1主題が現れます。対照的に、第2主題はイ短調、6/4拍子で、憂いを帯びた抒情的な旋律です。展開部、再現部を経て、長いコーダでは冒頭のモットー主題が静かに回想され、楽章を閉じます。演奏時間は約19分。

第2楽章：Allegro molto

活気に満ちた舞曲風の楽章にあたります。嬰ヘ短調、1/2拍子で、三部形式が採用されています。主部では、せわしなく動き回る弦楽器群の上に、金管楽器が勇壮な行進曲調の旋律を奏でます。中間部は変ロ長調に転じ、木管楽器や独奏ヴァイオリンが朗らかで楽しげな歌を歌います。主部に戻った後、冒頭のような激しさは次第に和らぎ、切れ目なく（アタッカで）次の楽章へと移行します。演奏時間は約7分。

第3楽章：Adagio － Molto espressivo e sostenuto

この交響曲の中心をなす、美しく叙情的な緩徐楽章です。ニ長調、4/8拍子で、概ね二部形式と言えます。前半部では、息の長い典雅な旋律が発展していきます。この主題の冒頭部分は、第2楽章の開始フレーズと音の並びが共通していますが、ここでは全く異なる、落ち着いた愁いを帯びた響きとして現れます。後半部では、交響曲全体のモットー主題に基づいた旋律が奏でられ、楽章全体に深みと感動を与えます。演奏時間は約12分。

第4楽章：Lento － Allegro － Grandioso

ニ短調で始まる、序奏付きのソナタ形式楽章です。短いレントの序奏では、バスクラリネットによるどこか不穏な導入の後、モットー主題が再び登場します。加えて、ファゴットやトロンボーンによって、この楽章に特徴的な新しい楽想も提示されます。アレグロの主部は、駆け上がるような開始に続き、強迫的な付点リズムを持つ第1主題、行進曲風の力強い第2主題、そして序奏の楽想を用いた小結尾主題が現れます。コーダは序奏の導入動機から始まり、楽曲全体の主調である変イ長調に到達すると、冒頭のモットー主題がオーケストラ全体による輝かしく壮大な響きで奏でられます。最後は6/4拍子に変化し、加速しながら劇的に全曲の幕を閉じます。演奏時間は約12分。

エルガーの交響曲第1番は、その雄大なスケール、情感豊かな旋律、そして巧妙に構築された形式によって、今日でも世界中の音楽愛好家に愛され続けています。

もう一度検索