交響曲第19番 (ミャスコフスキー)

ニコライ・ミャスコフスキーの手による交響曲第19番 変ホ長調 作品46は、管弦楽ではなく吹奏楽という編成のために書かれた稀有な作品です。この作品は吹奏楽の歴史において特に重要な位置を占めると評価されています。しかしながら、後述する特殊な編成や楽譜の入手性などの理由から、旧西側諸国などにおいては演奏される機会が必ずしも多くないのが現状です。

作曲の背景

作品誕生のきっかけは1938年に遡ります。当時モスクワ騎兵軍楽隊の楽長を務め、ミャスコフスキーと親交のあったイヴァン・ペトロフが、時代の軍楽隊が抱えていた貧弱なレパートリーに危機感を覚え、質の高い新作をミャスコフスキーに依頼したことから作曲が始まりました。
当初、ミャスコフスキーは単一の楽章からなる作品を構想していましたが、作曲を進めるうちにその構想は拡大し、最終的に伝統的な4楽章構成の交響曲として完成されることになります。

作曲と初演

1938年末には作品の素材となるスケッチが準備され、翌1939年に入ると作曲作業は驚異的な速さで進められました。1月5日にピアノ・スコアの執筆を開始し、わずか3週間後の同月26日にはオーケストレーション作業も終え、作品は短期間のうちに完成を見たのです。

この記念碑的な作品は、当時の赤軍創設21周年を記念して献呈されました。完成から間もない翌月、1939年2月15日には、ペトロフ自身が指揮するモスクワ騎兵軍楽隊によって、ソ連全土へのラジオ放送という形で最初の演奏機会が設けられました。これに続き、同月22日には同じ演奏者と指揮者によって、モスクワ音楽院の大ホールで公開での初演が実施されています。
国外においては、1948年にエドウィン・フランコ・ゴールドマン率いるゴールドマン・バンドによってアメリカでの初演が行われました。日本国内での初演は、1962年に辻井市太郎が指揮した大阪市音楽団によって実現しています。

楽器編成の特徴

この作品の楽器編成には、ロシアおよびソビエト連邦の軍楽隊がドイツの音楽様式の影響を受けて発展した歴史が反映されています。最大の特徴は、サクソフォーンが編成に含まれていない点です。その代わりに、フリューゲルホルンなどに代表される円錐管を用いた金管楽器が重要な役割を果たしています。また、ミャスコフスキーによるオーケストレーション書法も独特です。あたかもオーケストラの弦楽器パートを、クラリネット群やこれらの円錐管系金管楽器群に置き換えたかのような響きや役割分担が見られる点が指摘されています。

具体的な編成は以下の通りです。

ピッコロ
フルート 2
オーボエ 2
E♭クラリネット
B♭クラリネット 3
ファゴット 2
ホルン 4
トランペット 2
コルネット 2
E♭アルトホルン 2
B♭テノールホルン 3
B♭バリトンホルン
バス（チューバ） 2
打楽器（ティンパニ、トライアングル、大太鼓、小太鼓、シンバル）

ここに挙げたのは各パートの種類と数であり、特にクラリネットのように、実際の演奏では複数の奏者が一つのパートを担当する場合がある点に留意が必要です。

楽曲構成

作品は全4楽章で構成されており、全曲を通しての演奏時間は約25分程度です。

1. 第1楽章 マエストーソ - アレグロ・ジョコーソ
変ホ長調、4分の2拍子。ソナタ形式。
2. 第2楽章 モデラート
ハ短調、4分の3拍子。複合三部形式。
3. 第3楽章 アンダンテ・セリオーソ
変ロ長調、4分の3拍子。三部形式。
4. 第4楽章 ポーコ・マエストーソ - ヴィーヴォ
変ホ長調、4分の2拍子。ロンド形式。

この交響曲は、ミャスコフスキーの多岐にわたる作品群の中でも、吹奏楽というジャンルにおける傑作として、またソ連時代の軍楽隊の発展を示す資料としても、今なおその価値が認められています。

もう一度検索