交響曲第8番 (シューベルト)

シューベルト 交響曲第8番 ハ長調「ザ・グレート」

概要

フランツ・シューベルトの交響曲第8番ハ長調D944は、通称『ザ・グレート』として知られる。この名称は、同じハ長調の交響曲第6番と区別するために「大ハ長調」と呼ばれたことに由来する。当初「偉大」という意味合いはなかったものの、その規模と音楽的充実度から、現在ではこの通称が定着している。シューベルト自身もこの作品に『大交響曲への道を切り開く』という意気込みを込めていた。

この交響曲は、番号が長らく混乱していた。20世紀初頭までは未完のものを除いて7番目として第7番と呼ばれていた。その後、ドイチュ番号が付与され、未完の交響曲を含めて第9番とされるようになったが、現在は自筆譜で演奏可能な8番目の交響曲として第8番とするのが一般的になっている。ただし、現在でも第9番と表記されることもあり、注意が必要である。

演奏時間は60分を超える大曲で、シューマンは「天国的な長さ」と評した。ベートーヴェンの影響を受けつつ、シューベルト独自のロマン性を加味した作品であり、後のブルックナー、マーラー、ショスタコーヴィチなどの交響曲にも影響を与えた。

作曲の経緯

1824年、シューベルトは体調不良に苦しみながらも、創作意欲は衰えず、器楽曲に注力する意向を示していた。特にベートーヴェンのような大規模な交響曲に関心があった。同年5月にはハンガリーに滞在し、その際、交響曲の構想がすでにあったことを友人に伝えている。

1825年、シューベルトはオーストリア各地を旅行し、その途上でこの交響曲を完成させたと考えられている。当初、1828年作曲とされていたが、自筆譜の分析から1825年から1826年の作曲であることが判明した。

シューマンによる発見と初演

完成後、楽譜はウィーン楽友協会に提出されたが、演奏困難として却下された。その後、シューベルトの死後、1839年にシューマンがシューベルトの自筆譜を発見したことで、この作品は世に知られることとなった。

シューマンは、シューベルトを歌曲の作曲家としか認識していなかったため、この交響曲の存在に衝撃を受けた。シューマンの尽力により、メンデルスゾーンの指揮で1839年にライプツィヒで初演された。

グムンデン・ガスタイン交響曲

かつて、1825年にシューベルトが作曲したとされる「グムンデン・ガスタイン交響曲（D 849）」の正体は長らく謎であった。D 944は1828年の作曲と考えられていたため、D 849とは別の曲、あるいはD 944の下書きであると考えられていた。

しかし、D 944の自筆譜の分析から、この作品が1825年から1826年にかけて作曲されたことが判明し、現在ではD 944が「グムンデン・ガスタイン交響曲」であるという説が有力である。また、D 849とされたホ長調の交響曲の筆写譜は、後にシューベルトの断片を再構成した偽作であることが判明した。

データ

ドイッチュ番号：944
作曲時期：1825年から1826年
初演：1839年3月21日、ライプツィヒにて、メンデルスゾーン指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
演奏時間：約60分（繰り返しを含む場合）。繰り返しなしの場合は約50分。
楽器編成：フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ1対、弦五部

作品構成

第1楽章 Andante - Allegro ma non troppo

ハ長調、2/2拍子、序奏付きソナタ形式。ホルンのユニゾンで始まる序奏が特徴的。第1主題は付点リズムと3連符が特徴。第2主題はホ短調で提示される。序奏の主題が再現部で力強く再現され、楽章を終える。

第2楽章 Andante con moto

イ短調、2/4拍子、展開部を欠くソナタ形式。オーボエが主旋律を担当する第1主題部と、レガートを主体とした美しい第2主題が対照的。ホルンと弦の対話が特に美しい。

第3楽章 Scherzo. Allegro vivace

ハ長調、3/4拍子、三部形式のスケルツォ。メヌエットの性格を残しつつ、後のブルックナーを思わせるような主部と、シューベルトらしい旋律に溢れた中間部トリオが対照的。

第4楽章 Finale. Allegro vivace

ハ長調、2/4拍子、自由なソナタ形式。付点リズム、3連符、オスティナート、強弱のコントラストが特徴。第1主題は躍動的で、第2主題は抒情的。展開部にはベートーヴェンの交響曲第9番の「歓喜の歌」の引用が見られる。

演奏上の問題

第1楽章の序奏の再現部分におけるテンポ設定は、演奏上の大きな問題となる。ピリオド楽器による演奏や、当時の演奏習慣の研究から、テンポを落とさずにそのまま演奏する例が増えている。

また、終楽章の同じ和音の連続の処理も演奏上の課題である。シューベルトの自筆譜における記号(＞)の解釈も演奏者によって異なる。

参考文献

『【新音楽鑑賞法】名曲に何を聞くか〜音楽理解のための分析的アプローチ〜』田村和紀夫著、音楽の友社、2004年
『シューベルト：交響曲第８番「ザ・グレート」〈偉大なるアマチュア〉』土田恭四郎著、新交響楽団第241回演奏会プログラムより

外部リンク

交響曲第8(9)番D.944『ザ・グレート』の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
Symphony no.8 in C major 'the Great', D.944 - 『Musopen』より
Symphony No.9 'The Great' D.944 - 『Free-scores.com』より
『Leon Levy Digital Archives』（ニューヨーク・フィル公式）より
Symphony No.9 in C major ('The Great'), D.944 - 『AllMusic』より《ディスコグラフィ一覧有り》
インターネットアーカイブより
SCHUBERT：Symphony No.9 'The Great' - ストック指揮シカゴ響による演奏音源《1940年1月収録》
lp-00580_BeG - Joseph Haydn - フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルによる演奏音源《ハイドン『交響曲第88番「V字」』も併せて収録。当楽曲の演奏のあとにハイドン作品の演奏》
Sinfonia n°9 in Do maggiore, D.944 «La grande»（イタリア語） - 『Liber Liber』より《クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルによる演奏音源（1957年10月収録）》
* ノリントンのシューベルト演奏ノート

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