京王閣

京王閣：多摩川のほとりに咲いた夢の跡

京王閣は、かつて東京都調布市に存在した、京王電気軌道（現・京王電鉄）が運営していた一大レジャー施設です。その歴史は、多摩川の豊かな自然と、京王電鉄の沿線開発への情熱が交差する場所から始まりました。

誕生と発展

昭和初期、調布から多摩川周辺は養蚕業が盛んで、線路沿いには桑畑が広がっていました。多摩川は水質が良く、鮎や鯉など多くの魚が生息し、釣りを楽しむ人々で賑わっていました。また、稲田堤は桜の名所として知られていました。

1916年（大正5年）、調布駅と多摩川原駅（現在の京王多摩川駅）を結ぶ京王電軌多摩川支線が開通しました。これは、多摩川の川原で採掘された砂利を輸送するための路線でした。多摩川原駅からは、さらにトロッコで川原まで砂利が運ばれていました。

1927年6月1日、京王電軌は沿線開発の一環として、多摩川原駅前に「京王閣」を開園しました。本館は鉄筋3階建てで、総大理石貼りの大浴場（ローマ風呂）や和洋食が楽しめる大食堂、カフェ、ビリヤード場などがありました。屋外には、メリーゴーラウンド、豆汽車、ウォーターパーク、演芸場などが設けられ、当時としては画期的な規模を誇る総合レジャー施設でした。

その規模は東京近郊で最大級で、「関東の宝塚」と称されるほどでした。開園翌年の1928年には、年間入場者数が16万人を超える人気ぶりでした。

映画産業との関わり

1934年（昭和9年）、多摩川原駅の隣に日活多摩川撮影所が開設されました。これにより、多摩川周辺は映画産業の町として発展し、通称「日活村」と呼ばれる住宅街も整備されました。この地域は「東洋のハリウッド」とも呼ばれるようになり、京王閣もその賑わいの一翼を担っていました。

戦争と閉鎖

しかし、戦争の影が濃くなるにつれて、状況は一変します。桑畑は食糧生産のための畑に変わり、平和な風景は失われていきました。京王閣の施設は軍の業務に使用されることが多くなり、客足は次第に遠のいていきました。

終戦直後の1947年、京王電軌が大東急に合併されていた時代に、京王閣は売却されました。そして1949年、その跡地には京王閣競輪場が開設されました。

現在と記憶

京王閣は、その短い歴史の中で、多くの人々に夢と希望を与えた場所でした。今では競輪場としてその名残をとどめていますが、かつて存在したレジャー施設の記憶は、今もなお語り継がれています。

京王閣の資料は、京王資料館で一部見ることができます。また、当時の様子を伝える写真や記事が、様々な資料に残っています。これらの資料を通して、かつての京王閣の賑わいを偲ぶことができるでしょう。

参考文献

あいぼりー特別号「京王線・井の頭線　むかし物語」総集編　京王電鉄株式会社　広報部　2003年12月9日発行
「京王線100年と調布」調布市郷土博物館　2011年8月発行

関連項目

京王遊園
京王フローラルガーデンANGE
京王資料館
京王閣競輪場

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