他阿

他阿（たあ）の生涯と業績

他阿（たあ）は、鎌倉時代後期に活動した時宗の僧であり、遊行上人の2世として知られています。彼の本名は他阿弥陀仏ですが、一般に他阿と略称されています。彼の法名は真教とされているものの、同時代の文献にはその名は見られず、最初に登場したのは『本朝高僧伝』です。また、一部の文書には彼の署名が見られ、他阿との同定が行われています。俗姓は源氏の久我家とも言われており、彼の生誕地については豊後国（現在の大分県）または京都とも伝えられていますが、若い頃の活動は詳しく知られていません。

弘安元年（1278年）、他阿は九州で時宗の創設者である一遍に師事し、以降、彼の遊行に同行しました。一遍が亡くなった後の正応2年（1289年）、一旦解散した時衆を再結成し、組織として再編成しました。彼は越前国、加賀国、越中国、越後国、関東、東海道を中心に活動し、時衆の教義を広め続けました。嘉元2年（1304年）には、遊行の活動を3世の量阿に譲り、自らは相模国に草庵を建立しました。後にこの場所は金光院無量光寺となり、彼の住居となりました。83歳で示寂するまで、彼はここで教えを広めました。

彼の主な弟子には量阿の他、有阿（後の他阿呑海）や京都四条道場の浄阿（真観）などがいます。彼の教えや活動内容は、後に『他阿上人法語』という8巻のシリーズにまとめられました。また、他阿は「道場誓文」という文書を作成し、教団の結束を図りました。また、彼は歌人でもあり、京都の貴族たちと交流を持ち、歌集『大鏡集』に作品を残しています。伝記としては『一遍上人縁起絵』があり、この作品は全10巻から成り、前半4巻が一遍、後半6巻が他阿について語られています。

他阿の肖像は、各地の寺院に存在します。特に長崎称念寺の画像や、東山長楽寺の木造椅像、さらに国府津蓮台寺や常称寺の木造座像が有名で、それぞれ重要文化財として保存されています。彼は晩年に中風を患い、その結果、口元に特徴的な変化が見られました。

一遍は自身の弟子である聖戒を後継者として認めていたと考えられていますが、一遍の死後、信徒たちは全国に散らばり、時宗の教団は一時消滅の危機に瀕しました。この状況を他阿が再結成し、教団を再興しました。彼は時衆の統制を図り、信者たちに対しては僧侶を「仏の御使い」と位置づけ、絶対的な服従を強いた知識帰命の教えを取り入れました。また「時衆制誡」や「道場制文」を定め、時衆の教団化と定住化を進めました。その結果、彼の消息には百を超える道場（寺院）があると記されています。

現在の時宗教団は、他阿真教の流れを汲む藤沢道場清浄光寺（遊行寺）が基盤となり、他の念仏聖の流派とも合流する形で発展を遂げました。歴代の時宗の法主は「他阿」の名を称し、彼は一遍と並ぶ「二祖上人」として多くの時宗寺院でその姿が敬われています。彼の功績を称えて「大聖（おおひじり）」と呼ばれることもあります。

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