遊行

遊行（ゆぎょう）とは

遊行とは、主に仏教の僧侶が、布教や修行を目的として各地を巡り歩くことを指します。この行為は、単なる移動に留まらず、民衆の信仰生活や地域文化に深く根ざした活動でした。

遊行者の多様な系統

松崎憲三は、五来重の研究に基づき、中世以降の遊行宗教者を以下の三つの系統に分類しました。

1. 神道系：御師、神人、願人などが含まれます。伊勢や熊野、八幡などの神社から派遣され、お札を配布したり、家内安全の祈祷を行ったり、信者の代理として参拝したりしました。また、各地に神社の分社や分霊を祀る活動も行いました。
2. 陰陽道系：法印陰陽師が代表的です。暦や符を携え、「田舎わたらい」として各地を巡り、博士村や院内村といった拠点を作りながら、占い、呪術、方位術、そして荒神祓いなどを行いました。
3. 仏教系：
念仏系：聖と呼ばれる人々が中心で、念仏を唱えながら各地を巡り、民間に仏教を広めました。
密教系：山伏や客僧が該当し、山岳修行を行いながら、密教の教えを広めました。
法華経系：持経者、六十六部、法華経行者などがおり、法華経を広めました。
禅宗系：雲水、放下僧、虚無僧などがおり、禅の教えを広めました。

聖（ひじり）の役割

特に仏教系の遊行者の中でも、「聖」と呼ばれる人々は、民間宗教の普及に大きく貢献しました。彼らは、仏教の儀礼や教義を民衆に広める重要な役割を担いました。聖の中には、正式な僧侶もいましたが、多くは半僧半俗の宗教者でした。空海や行基のような歴史的な僧侶から、16世紀に地獄極楽図を解説した比丘・比丘尼、17世紀の円空や18世紀の木喰といった作仏聖まで、その活動は多岐に渡ります。

彼らは、全国各地を巡り、仏像を制作したり、説法を説いたりしながら、民衆の信仰生活に大きな影響を与えました。彼らの足跡は、各地に多くの伝説として残っています。

遊行がもたらした影響

遊行者は、単に宗教的な活動をするだけでなく、知識人としての側面も持ち合わせていました。そのため、彼らが訪れた地域では、寺の建立、食文化の普及、農作物の普及など、文化的な発展にも貢献しました。彼らの存在は、地域の文化形成に不可欠な要素であったと言えるでしょう。

時宗と遊行

時宗は、その活動を「遊行」と呼ぶこともあります。時宗の総本山である清浄光寺は、通称「遊行寺」として知られています。栃木県那須町にある「遊行柳」には、時宗の僧侶が柳の精を成仏させたという伝説が残されています。このことからも、遊行という言葉が、時宗の活動と深く結びついていることがわかります。

遊行は、単なる移動ではなく、人々の信仰や生活に深く根ざした文化的な営みでした。その足跡は、現代の私たちの文化にも影響を与え続けています。

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