代物替

代物替（しろものがえ）とは

代物替は、江戸時代の長崎における海外貿易で用いられた特殊な取引方法です。これは、双方の商品を金額が一致するように交換する、いわゆる物々交換を指します。当初は「願売（ねがいうり）」や「荷物替（にもつがえ）」と呼ばれていましたが、定高貿易制が導入された後の1686年、唐船側の要望によって正式に始まりました。

代物替の背景

当時の貿易は、幕府によって貿易額が厳しく制限される定高貿易制が採用されていました。しかし、この制度によって唐船の積戻し品（売れ残り）が大量に発生し、これらの処分を目的とした抜け荷（密貿易）が頻発するようになりました。そこで、定高の枠外で積戻し品を処分する手段として、物々交換による代物替が考案されたのです。

代物替の内容

代物替では、様々な品物が交換されました。特に、1695年から始まった銅代物替では、生糸、織物、香薬、砂糖、皮革、鉱物、漆、蝋などが、棹銅や玉銅、金線（金糸）と交換されました。また、1715年の海舶互市新例で設けられた有余売・雑物替（ぞうもつがえ）では、絹織物、薬物、砂糖、小間物などが、当初は俵物、玉銅、芝吹銅と、後に昆布、鯣（するめ）、鰹節、銅器物、真鍮製品、蒔絵、伊万里焼物、樽物などと交換されました。

唐人たちが最も求めたのは、煎海鼠（いりこ）、鱶鰭（ふかひれ）、干鮑（ほしあわび）などの俵物でした。これらの品は、貿易の代価として全て長崎会所に納めなければならず、市民間の売買は固く禁じられていました。わずかでもこれらの品を買い付けたり貯蔵したりすると、抜け荷を企てていると疑われる可能性があったため、厳しい規制が敷かれていました。

代物替会所の設立と運営

1695年8月、江戸の商人である伏見屋四郎兵衛が、銅の代替として唐船の積戻し品1500貫分の取引を、幕府に1500両の運上を納めることを条件に開始しました。当初、幕府は1000貫分の取引を認め、四郎兵衛は運上金とは別に大きな利益を得ました。翌年には貿易総額5000貫分、運上金1万両で取引が行われ、伏見屋はさらに大きな利益を上げましたが、翌年には運上金が増額されたため、利益は減少しました。

1698年には、長崎町年寄の高木彦右衛門貞近が、2000貫目の積戻し品を俵物で買い取ることを認められ、「代物替会所」が設立されました。彦右衛門は銅代物替の総締役を命じられ、翌年には会所は「長崎会所」に改称され、彦右衛門が引き続き元締めを務めました。この頃には、彦右衛門は代物替運上方（しろものがえうんじょうがた）に任命され、幕府から役料を受け取る身分となっていました。

その後、江戸の商人である桔梗屋又八、納屋長左衛門、岡又左衛門の3名が伏見屋に代わって銅代物替貿易を請負い、年間1万6000両の運上金を納めることになりました。しかし、大坂商人との取引上のトラブルから銅の調達が難しくなったため、勘定奉行の荻原重秀が長崎を巡見し、長崎貿易の利益と会所運営費用の調査を行うとともに、輸出用の銅の調達を命じました。

このように、代物替は長崎の貿易において重要な役割を果たし、経済に大きな影響を与えました。また、その運営には多くの商人や役人が関わり、複雑な利害関係が存在していたことがわかります。

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