日宋貿易

日宋貿易：平安から鎌倉時代を繋いだ東アジア交易の隆盛

10世紀から13世紀にかけて、日本と中国の宋朝の間で活発に行われた貿易、日宋貿易。遣唐使の廃止（894年）以降、日中間の交流を担った重要な歴史的出来事です。この貿易は、日本の平安時代中期から鎌倉時代中期にあたり、日本の経済や文化に多大な影響を与えました。

遣唐使廃止後の日中交流

遣唐使廃止後も、藤原氏と呉越国との間では外交が続けられていました。中国大陸が宋によって統一されると、日本と宋の間では私貿易が盛んに行われるようになります。当初は、民間の交易が主体でしたが、やがて平氏政権、そして鎌倉幕府もこの貿易に深く関わるようになりました。ただし、両国間で公式な国交が樹立されたわけではありませんでした。この一連の交易によって大量の宋銭が日本に流入し、日本の貨幣経済の発展を促す大きな要因となりました。

貿易は、日本、高麗、宋の三国間で行われ、日本の拠点としては越前国敦賀、そして特に筑前国博多が重要な役割を果たしました。博多は、多くの宋人が居住する国際都市へと発展を遂げます。

平安時代の貿易

960年の北宋成立後、北宋政府は貿易振興政策を積極的に展開し、各地に市舶司を設置、日本や高麗との貿易を奨励しました。日本では、遣唐使廃止後も大宰府が日唐貿易を管理していましたが、11世紀に入るとその権力は衰え始めます。日宋間の公式な外交貿易は存在しませんでしたが、宋の商人は博多、薩摩坊津、越前敦賀などに来航し、活発な私貿易が行われていました。

1126年の靖康の変と南宋の成立は、日宋貿易に新たな局面をもたらします。華北からの難民流入による南宋の人口増加は、森林資源の枯渇を招き、日本からの木材の大量輸入を必要としました。阿育王寺舎利殿や天童寺千仏閣の建築には、重源や栄西といった日本の僧侶が木材を提供しています。また、疫病の流行は、宋から最新の医学知識や薬品の輸入を促し、日本の医学の発展にも貢献しました。梶原性全の『頓医抄』や吉田兼好の『徒然草』には、宋からの輸入品への言及があり、日宋貿易が日本の医療に欠かせない存在であったことがわかります。

平氏政権と日宋貿易の隆盛

平忠盛は日宋貿易に着目し、独自に交易を行い、朝廷に舶来品を献上することで勢力を拡大しました。平氏政権成立後は、伊勢の水銀などを輸出品として貿易を拡大し、平清盛は大宰大弐に就任（赴任せず）、弟の平頼盛が大宰府に赴任し、日宋貿易を掌握しました。平氏は博多に人工港を築き、瀬戸内海航路を掌握、貿易を本格化させました。

1173年には福原大輪田泊（現在の神戸港の一部）を拡張し、博多を迂回して福原に直接交易船が入港するようになりました。宋の地方長官との間で公式な書状のやり取りが行われましたが、これは中国皇帝と日本天皇の間の正式な国交や交易ではありませんでした。しかし、この「公式」な貿易振興策によって、貿易は空前の発展を遂げ、大宰府の権力は大きく衰えることになります。一方、大量の宋銭流入は貨幣経済の発展とともに、物価の乱高下や社会不安も引き起こしました。1199年には、高麗・日本の商人への銅銭交易禁止令が出されました。

鎌倉時代の貿易

平氏政権滅亡後も、鎌倉幕府は民間貿易を容認し、鎮西奉行が博多を統治、幕府から御分唐船を派遣しました。貿易は南宋末期まで続き、禅宗の普及にも貢献しました。元寇後も、元との貿易が行われましたが、日宋貿易ほどの活発さはなく、中国商人の日本居住も困難になっていたと考えられています。日明貿易開始（1401年）までは、私貿易が中心でした。

日宋貿易と国交史

遣唐使廃止（894年）と渤海滅亡（926年）以降、日本と周辺諸国との公式な国交は途絶えていました。人的往来も、仏僧以外では公式には禁止されていました。しかし、実際には、民間海商が貿易を担い、中央朝廷の統制は弱まっていました。日宋貿易の隆盛は、琉球弧の南島交易の活性化にもつながりました。周辺諸国との公式な国交が再開されるのは、1401年の日明貿易開始まで待たなければなりません。

貿易品

日本へは、宋銭、陶磁器、絹織物、書籍、薬品、絵画、香料などが輸入され、日本からは銅、金銀、木材、刀剣、硫黄などが輸出されました。宋銭の輸入は、日本の貨幣経済の発展に大きく貢献し、仏教経典の輸入は鎌倉仏教に影響を与えました。当時、宋からの船は転覆しやすいことから、船底に宋銭を重りとして敷き詰めていたとされ、このことが日本の宋銭流通の促進に繋がったとされています。

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