伊勢屋利兵衛

伊勢屋利兵衛（いせや りへえ）は、生没年不詳ながら、江戸時代末期から明治時代初期にかけて、江戸および東京で地本問屋として名を馳せた人物です。その活動期間は、江戸後期の出版文化を語る上で重要な位置を占めています。

来歴

伊勢屋利兵衛は、「伊勢利」「伊世利」「錦樹堂」といった号を用いていました。寛政年間から明治時代初期にかけて、江戸の下谷池之端仲町通、後に上野元黒門町七兵衛店を拠点に地本問屋を営んでいたことが記録されています。この地本問屋とは、主に錦絵や絵本といった出版物を扱う問屋のことを指します。

伊勢屋利兵衛は、喜多川歌麿、歌川国貞、二代目歌川豊国、渓斎英泉、歌川広重、歌川国芳、肉亭夏良、葛飾北斎など、当時を代表する人気絵師たちの錦絵を数多く出版しました。特に、天保中期に保永堂と共同で出版した渓斎英泉と歌川広重による横大判の錦絵揃物『木曽海道六拾九次之内』は、彼の最も著名な作品として知られています。

作品

伊勢屋利兵衛が手がけた主な作品には、以下のようなものがあります。

喜多川歌麿 『名所腰掛八景』：寛政8年（1796年）から寛政9年（1797年）頃に制作された大判8枚揃の錦絵で、当時の風景と人物の描写が美しい作品です。
歌川国貞 『美人合』：歌川国貞による美人画で、詳細な制作年や形式は不明ですが、当時の美人風俗を捉えた作品として知られています。
歌川国貞 『奉納提灯』：同じく歌川国貞による作品で、祭りの賑わいを描いたものと考えられます。具体的な形式や制作年は不明です。
歌川国貞 『星の（や）霜当世風俗』：文政2年（1819年）頃に制作された大判10枚揃の錦絵で、当時の風俗を反映した作品です。
二代目歌川豊国 『名勝八景』：天保4年（1833年）から天保5年（1834年）頃に制作された横大判10枚揃の錦絵で、各地の風景を描いた作品です。
渓斎英泉・歌川広重 『木曽海道六拾九次之内』：天保中期に竹内孫八と合版で出版された横大判71枚揃の錦絵で、中山道沿いの風景を描いた名作として知られています。
葛飾北斎 『浮絵 両国夕涼』：葛飾北斎による浮絵で、両国の夕涼みの様子を描いた作品です。
歌川国芳 『高祖御一代略図』：天保中期頃に制作された横大判10枚揃の錦絵で、歴史上の人物を描いた作品です。
肉亭夏良 『訓童小学校教導之図』：明治7年（1874年）に制作された大判3枚続の錦絵で、明治初期の教育現場を描いた珍しい作品です。

これらの作品は、当時の人々の生活や風俗、文化を今に伝える貴重な資料となっています。

参考文献

伊勢屋利兵衛に関する研究は、以下の文献で確認できます。

日本浮世絵協会編 『原色浮世絵大百科事典』第3巻 大修館書店、1982年 ※135頁
吉田漱 『浮世絵の基礎知識』 雄山閣、1987年 ※143頁
小林忠 大久保純一 『浮世絵の鑑賞基礎知識』 至文堂、1994年 ※209頁

これらの文献は、伊勢屋利兵衛の活動や作品について、より深く理解するための手助けとなるでしょう。

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